くあ。
護衛任務中だというのに気の抜けたあくびが出てしまう。
そろそろ夜明け。
締め切ったカーテンの隅からほんのりと青い光が漏れ、早起きな鳥の鳴き声も遠くから聞こえている。
密着護衛は時として依頼者の寝室で夜間待機する場合があり、今回がそれだった。
すやすやと安心しきって眠るお客さんが羨ましくないと言えば嘘になる。逆に言えば、深く眠られるくらい信頼されていると思えば良いことなのだろう。
護衛はこの夜が明けるまで。つまりお客さんが起きて任務完了の手続きを終えたら今回は上がり。
ツヴァイに依頼するほど警戒するわりには大きな揉め事も無く、比較的楽だったのは助かる。
「はぁ……ぁー……」
もう一度大あくび。お客さんが起きる気配は無い。
そういえば、遠方の彼も夜間に決闘が入ったと言っていたか。
基本的に彼の決闘は明るく映像映えする昼間に多いが、予定の擦り合わせで珍しく夜に行うことになったらしい。
それを聞いた時は面白半分に、せっかくの夜を生かしてカラフルなライトを焚きまくるクラブよろしくド派手にすればいいんじゃないかと提案したが、まさか実行してないだろうな……?
生えた少しの不安と大きな好奇心が眠気を隅に追いやっていく。ふむ、任務が明けたら仮眠取って動画を確認しよう。
誰も見てないのをいいことに密かに笑う。
同時に、するりと追いかけて来る冷気のような寂しさに胸を締め付けられた。
そう、動画。動画だけでここ最近は自分を宥め慰めて過ごしている。
あちらが多忙なため連絡を取ることも出来ず、画面越しに録画された像を追うことしかできていない。
画面の向こうの彼を、生身で感じたい。
触れて、合成じゃない声を聴きたい。
意志を秘める瞳で俺を……。
嗚呼……いつの間に、こんなに欲深くなってしまったのだろう。
もっとどっしり構えて、むしろ彼からの求めに応えられるようにしなければならないのに。気を抜くとどんどん欲が先走ってしまう。彼を求めて走ってしまいそうだ。
こんな俺を彼は笑うだろうか。
それとも、太い腕で受け止めてくれるだろうか。
嗚呼、嗚呼駄目だ。
考えれば考えるほど彼に会いたくなる。
どうして、こんな……。
お客さんを起こさないよう喉の奥にため息を隠す。
早く夜が明けてくれ。
夜明けの青色にさえ恋しさを募らせる胸が潰れてしまいそうだ。