愛しい人の口付けで始まる朝ほど、目覚めの気持ちいい朝は無いだろう。
それが唇ではなく、額や頬であろうと、優しい感触から伝わる愛情と僅かな羞恥で胸の中は満ち足りる。
そうやって淡い夢から脱し、今日の一番に甘い栗色を視界に捉え、ぼんやりと見つめながら心地の良い声に耳を澄ませるのだ。
「おはよう、ムルソー」
隻腕の柔らかな先端でこめかみあたりを撫でられる。
少し擽ったくて、甘くて、手を添えてキスをした。
「おはよう、ございます」
「ん」
それから腰を抱き寄せて胸元に顔を埋め、深く息を吸う。
彼そのままの、どこか懐かしさを覚える匂い。
「ふっ、二度寝するか?」
「………………」
彼を抱きしめたまま、気だるい首を横に振る。
今日は昼前に決闘のシフトが入っている。今はまだ朝の早い頃合いだろうが、そろそろ起きて朝練の準備を始めなければならない。
協会の活動と方針は自分と良く合っていたが、彼との時間を我慢せねばならないことだけが辛く思う。
「そっか。じゃあ、起きられるか?」
やんわりと髪を撫でられながら額に唇を感じ、やっと重い体を持ち上げる。
名残惜しさを引き離しつつ、白みはじめた朝焼けの中でフィアンセにキスを返した。
「ン……、ん?」
キスの合間に挟まる彼の疑問符。
胸を押されてしぶしぶ離れると、愛しい顔は困ったように眉を下げながら頬をほんのり染めている。
「どーこ触ってんだ」
「……臀部?」
「そうだな。こら」
小ぶりな尻が丁度良い位置にあったから揉み込んでいただけなのに手をつねられる。どうして。
「これ以上はダメだ。朝から盛るなって」
「盛ってはいない。そこにあったから」
「つまみ食い感覚で尻を揉むなよ。そんな顔してもダメなもんはダメ」
そんな顔とはどんな顔だろうか。
もし彼に効き目があるなら工夫を凝らして再挑戦したいのだが。
「ほら、もうすっかり目が醒めたろ? 起きよう」
「ああ」
彼の言う通り、とうに夢の尾も完全に消え去り朝を受け止めていた。
先に降りた彼に倣ってベッドから降りる。
「良い朝だな」
レースカーテンを開けて朝陽を浴びるグレゴール。
眩しい光が髪を飴色に透かせ、とても甘そうだった。