「ムルソーが少年のころに護衛をしたグレゴールと、自分を護る彼の姿に恋をしたムルソー少年があの人に見合うように超頑張ってセンク三課まで強くなった」
という高純度の幻覚を多分に含みます。
楽しめる人はお楽しみください。
胸の中に焼き付いた青色を追い走り続ける。
忘れられない栗色の毛先を、ずっと、ずっと。
彼女の全てが欲しいと思ったのはいつからだろう。
彼女に振り向いてもらいたいと。彼女に見合う男になりたいと願ったのは……そう、初めて出会ったあの日から。
彼女に護られたあの時に、私の運命は決まったのだ。
鮮烈に心を焼いた青色の憧憬を追いかけて努力を重ね続けた。
研鑽に研鑽を積み、挫折に気炎を上げ、奈落と向き合う度に遥かな高みを渇望した。
昼は鍛錬に全てを投じ、夜は決闘教本を頭に叩き込む。連日連夜、ひたむきに強さを求め続ける。
その中には眠れない夜も当然あった。私は結局一人の凡人だったのではと。求める高みは幻想にすぎず、この身で至る権利など最初から無いのではと。
そんな思考の汚泥に沈む時、私を引き上げたのはいつだって青色の憧憬だった。
記憶の宝箱で大切に保管してある遠い記憶が……青色の背中が、あの日と同じように私に寄り添い、墜落しかける体を支えてくれた。
美化された記憶と言われたところで否定はしない。人の記憶とはそういうものだ。映像媒体のように一言一句、その日の光景を完璧に記憶し続けるのは至難の業。だから彼女の笑顔も、見惚れた技も、記憶違いを起こしている可能性は大いにある。
だが、それがどうした?
私は彼女に護られた。彼女のおかげで今の私が在る。記憶の彼女に何度も救われた事実は決して変わらない。
例え今の彼女を見てもこの想いが変わらない確信も、ある。
活動上メディア露出こそ少ないが、フィクサー雑誌の特集に時々映っていることがあり、あの日の栗色が変わらずそこにいるのを全て保管している。
だからどこにも問題は無い。彼女が私のことを覚えていなくても、ならば最初から口説き落とせば良い。子供の時分を忘れてくれている方がこちらにとっても好都合だろう。今の私で勝負すればいいのだから。
そうやって青色を追いかけ、追いかけて追い越した私を、見て欲しい。
貴女に憧れ、心を奪われた少年の想いに、どうか応えて欲しい。
「グレゴール……私は、貴女が」
一番柔らかな想いの丈を晒す一人の男を、果たして彼女は真っ赤に照れながら返事をくれる。
胸へあふれ出る感情の濁流に呼吸を荒げながら、ついに、私だけの青色を抱きしめた。