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    俺俺俺

    かおるです

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    俺俺俺

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    ホグゲームのやつ、ちょっとだけシナリオに触れそうな感じあるので注意してもろて、、、、

    多くの部屋は家具の定位置が決まっている。乱雑に見えるように配された家具もおよそ自分の位置を把握してそこに佇んでいる。この部屋の異常さは───というか構成される要素は────多くの意志を持ってひとつとして定まろうとしない無配列さにあった。
    ────意図が読めないことほど恐怖を感じることはないだろう。目が覚めたら全く知らない部屋にいる時ほど。
    女は目覚めたばかりだった。


    「じゃ、君もここに来たのは初めてなんだね?」

    向かいに座っている見知らぬ男───知り合いにいたらすぐ見当がつくほどの男は恭しくそういった。上等そうなスーツ、傷一つなさそうな靴。鷹揚な仕草は上流階級であることをまざまざと見せつけた。

    「早く帰してよ、あたし家に子供がいるから。」

    自分の服装がみすぼらしく見える。安売りの服、大量生産で生地の薄い、よくほつれてすぐ買い替えられる服───それは自分を象徴していた。
    自身の友人にいない人間と対峙すると惨めったらしくみえるのを、とにかく払拭したかった。

    こんな時に敬うなんてことは出来ない。とにかく相手に呑まれないようにしないと。目が覚めたら知らない部屋だ───とにかく命が大切だ。部屋に置いてきた幼子も気になる。知人に預けているとはいえ───まだ4歳になったばかりだった。

    「君、子供がいるの。すぐ帰してあげたいけど、僕だってここに来るのは初めてなんだもの。」

    「そう。趣味の悪い人間にさらわれたの?あなたみたいな人、初めて見る。」

    「僕も君のような人は初めて見るよ。」

    上流階級の人間にとって自分のような下層級の人間は珍しい動物のようなものだろう。初めて見るから面白いことがある。檻の中にいて、安全が確保されているから。はした金でなんでも言うことを聞くと思っている。

    「誤解しないでほしいな。君、五体満足で帰りたいんだろう。」

    「勿論。あなたに子供がいるなら分かると思うけど。
    ひとときも目を離したくないの。目を離したくても…1人目は特に。聞いたことは?」

    「あるよ。僕は子供が好きでね。可愛いよ。子供が好きな事と子供を育てることは合致しないけれど……君はどうかな。」

    男は面白そうに話を聞いて、指でなにかを弄んでいる。男の視線が動いた。
    男の向かいにある椅子に座るように言われている気がする。
    テーブルについて、ここに座らなくちゃならない。

    「それじゃ、君。そこにあるサイコロを振って、ゲームをしよう。」

    「目の前の紙は読んだ?とにかくここから出るには、ゲームをしないとね。」

    目の前の紙にはゲームの概要と、外にいる主人を満足させないと出られないように書き記されている。

    「じゃ、始めよう。
    安心して、君の子供は無事だからね。」

    「君がこのゲームをし続ける限りは……」
    男は微笑する。
    テーブルの上で、賽子が振られた。




    彼女は真実にたどり着き、早々にここから出ていった。
    体感した時間は1週間と少しだろう。憔悴していく彼女を見るのは辛かった。少し手をかけても良かったが……

    弱った人間は救いの手にしがみつく。それがどんな魔の手であっても──彼女の足はまだ痺れているだろうか?
    外に出るとまだ1時間も経っていないはず、と止まった時計を見た。

    視線を戻すと、また誰かが倒れているらしい。



    「───それでお前は彼女を救い出したのか?」
    「うん。そうだよ。今みたいにね。」

    椅子に無遠慮にもたれた、幾分かくたびれた服を着た男は、嘲って笑った。

    もうここに来て1ヶ月になる男は、腹の中をこれでもかと見せていた。
    借金取りに追われなくていい。ここはただお前と話すだけでいい。そういって笑っていた。


    「へえ、光明。お前って案外良い奴なんだな。」
    賽子が振られる。

    「じゃ、君は案外最低なのかな?」
    賽子が振られる。

    「いいや。俺はどこにでもいるよ──」
    賽子が振られる。

    「……ここから出たい。」
    賽子が振られる。

    「早くここから出してくれ!」
    賽子が振られる。

    「もう十分だ!出してくれ!」
    賽子が振られる。

    「もう十分だ。もう十分!
    もういつでも殺されて構わない。
    早く殺してくれて構わない!
    早くここから出られるなら、何でもする……」
    賽子が振られる。


    男はやつれきってしまっている。部屋にある家具を蹴り倒し、殴り、ほうぼうに暴れ、拳から血を流し、部屋に振りまいた。
    男はひと通り暴れて、
    「俺は豚だ!食い尽くされるだけに生まれた豚なんだ!」
    叫び、床を這って、何回か食器棚に無茶苦茶に頭をうちつけた後、なめくじのように静止した。

    光明と呼ばれた男は、机で何かを作ったあと、それこそ儀式めいて席をたち、
    床に伸びた男を見下ろした。

    「ホグ。君はまだ僕を満足させちゃいないよ。」
    伸びた男の頬を叩き、起き上がらせた。
    男はまだぶつぶつ何かを唱えていたが、近くのソファに座らせた。
    光明は作った紙煙草を男に咥えさせ、先端に火をつけた。
    みるみる目が充血していく。

    煙を吐き出させると、
    恍惚としたホグが、
    「お前は悪魔か?審判が俺に下るのか?いいや、それとも鬼か?閻魔大王か?ハハ。嘘つきは舌を抜かれてしまう。南無阿弥陀仏。これで俺は極楽行きだ。そうだろ?お前が悪魔でなければ。いや、それもいい。俺はお前になら地獄に落とされても構わない。」
    取り留めのないことを言っている。
    遅れて流れ出した子守歌がホグをあやしだした。

    光明は錯乱しているホグをよそに、
    ホグの頬をひと舐めした。

    「お前、あの女とやったのか?」
    「何を?」
    「セックスだよ!馬鹿。お前ってほんとに分かんねえよな。お前のお綺麗なアレが使い込まれた女のアソコに収まるなんて、笑えるよ!」

    ホグは頬の肉を振るわせて笑った。笑う度にホグの顔の肉は振動して、お互いを打ち付けあった。

    「ホグって本当に失礼だ。彼女に謝って。」

    「嫌だね。大体、使い込まれているに決まってるだろ?子供がいるんだから!アソコのヒダだって広がってるよ。モーセが開いたんだ。お前がモーセなら別だけどな、ハハ。」

    ホグはそういって寝転んだ。当たり前のように光明の足を下敷きにした。ソファに埋まるホグは名前の通り醜い男で、性根が食い尽くされている男だった。

    光明はホグの売り言葉を買わず、机にあったワインボトルを持ってホグに向き直るとそのまま顔に浴びせた。

    「何すんだよ!野郎。お前はほんとに悪魔だ。」

    「ホグ。あの人が子供を持っているからと言って、性交渉の回数と関係があるわけじゃないし、そう言って品評するのは間違ってる。君が彼女に嫉妬して、貶めるのは良くないよ。大体彼女は君のお母さんでも、お姉さんでもないんだから。君は履き違えてるよ。」

    「黙ってろ。何が悪いんだよ。終わったことだろ!早くここから出してくれ!殺してくれって言ってるだろ!」

    ホグはまた暴れた。自分の最期を知った家畜が暴れ出すように、屠殺者の上で。

    光明はホグの痴態に顔色一つ変えず、ワインボトルの口を掴んでホグの額に叩きつけた。
    額にはホグの血と、ワインが混ざりあっている。ホグは目を閉じて固まった。
    光明はそのまま自分のネクタイを解いて、あっさりと手首を縛ってしまった。

    光明は手にした紙煙草に火をつけた。
    いつも通りの午後が来て、つまらない一日が終わることに心底うんざりしている人間の、変わらないため息のように煙を吐いた。

    ホグは最初こそ暴れたが、
    観念したのか”吊るされた男”のように
    大人しく全てが終わることを待っていた。


    幾分か歪んだソファを後にして、ホグと光明はまた席に着いた。ホグが暴れて滅茶苦茶にした家具は元通りになっている。

    「ホグ、なにか食べよう。」
    光明が食器棚からカトラリーを並べた。
    皿は空いたままだ。

    「それで?」
    賽子が振られる。

    「ああ!目の中に虫が入った!痛い!痛い!」
    賽子の目は1を示した。

    「痛い!痛い!」
    賽子の目は1を示したままだ。

    「じゃあ、目の中の虫を取らないとね。」
    賽子の目はホグを捉えている。

    ホグはもう一度叫ぶと、体をくの字に折り曲げ、ナイフでそのまま目を貫いた。衝撃で勢いよく前に倒れ、空いた皿の前に顔をうちつけた。白い皿にはホグの血液が飛び散り、光明の顔をも汚した。









    ────意図が読めないことほど恐怖を感じることはないだろう。この部屋に無数の人間が折り重なって置かれていることを誰が予想できるだろうか?蛆1匹、鼠1匹見当たらないがそれが明らかに人間であったことを本能が告げていた。乱雑に置かれた一体───、一人の頬は削がれたように無くなっている。


    「お前とは初めて会った気がしないんだ。すごく気が合うし、こんな部屋にいるから、俺も少しやられているのかもしれない」

    「大丈夫だよ。実は僕もなんだ。こんなところで会うなんて、なんだか不思議だね。」

    「そうだな。でも、会うならもっと別のところが良かった。」

    「そうだね。ああ、そうだ、孝泰は食べないの?美味しいよ、このローストビーフ。」

    「ん?ああ…なんだか腹が減らなくて。光明が食べてくれ。俺は水だけでいいよ。」

    「そう。じゃあお言葉に甘えて。」
    光明はワインを飲み干すと、また食べ始めた。

    ローストビーフは血を滴らせ、白い皿に螺旋状に盛り付けられていた。添えられた葉物は色鮮やかで目を楽しませる。よく腕の立つ料理人が、休日に作ったような仕上がりだった。

    食べ終えた光明が、孝泰を促した。

    「なにか手がかりを見つけられるかもしれない。少し部屋の中を見て回ろうか。」

    「大丈夫。僕たち以外誰もいないよ。もしいるなら───動物くらいじゃないかな。」
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