2回目のキス 感情の高ぶりのせいか、微かに紅く染まっていた少年の唇の先に、ほんの小さなキスを落とした。
拠点であるマンションのリビングにて、稀に舞い込んでくる情報の取り捨て選択とこれからの戦略について話し合っていた時のことだ。
「……え、」
柴は思う。少しばかり言い訳をさせてほしい。その頃の自分にとって、否、寧ろ彼がこの世界に生まれ落ちた瞬間からずっと、彼はたったひとりの特別な少年だった。自分にとってそうだったように、きっと彼にとっての己もそうであったと信じたい。お互いに口にはせずにしても、お互いの気持ちは分かっていたと思う。それでも恋人と呼ぶにはあまりにも何もかもが足りない関係だった。志を揃えた復讐者とその共犯。保護者と被保護者。親友の子供と父の友人。そのどれもがキスなんて行為にあまりに相応しくなかった。どんなに相手が愛しいと思っていても言葉にするには難しい。そんな関係だった。チヒロの視線が見覚えのある熱を帯びていても、答えられなかった。ふらついた血塗れの身体を抱き留めること。自分に相応しいのはそれくらい。そう思っていたのだ。この時までは。
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