アンネクスポードアンラック 平和な一日。
荒野の喧騒から隔離された、方舟の中。不意に大あくびを漏らしてしましそうな、贅沢で、退屈な時間。一杯のコーヒーと、ドアと共に床を滑っていくリーベリの女。
「うん?」
平穏な空気を蹴破って現れた女に、ヘレナは目を丸くした。ワンテンポ遅れて、宙を舞ったタンブラーが音を立てて同じように床を滑る。
「ったぁ……」
「あなた、大丈夫?」
「うぅ、ありがとう。大丈夫、よくあることだからね。それに――うん、コーヒーがこぼれてない! やっぱり今日のあたしはツイてるよ」
差し伸べた手が、力強く握り返される。たおやかな見た目の割に、その手の平からは決して一朝一夕では身に付かない技術者の証が感じ取れた。
「ふふ、そうかもね。もしかして、普段からこんな楽しいコトしてるの?」
2002