空気を纏う 教育係だった男から聞いた話だ。物心がつき、部屋の中を自由に歩き回るようになった頃から、母の遺品の香油の小瓶に興味を示したらしい。他にも似たような玩具や瓶はあったが、香油瓶を特に眺めていたそうだ。
香油瓶の中を確かめることを許可されたのは12の時だ。覚えている限りでは、小瓶は三十本程はあった。一日に一本ずつ香りを確かめ、自分にだけ香りが分かるように付けた。
一日の中で不意に香りが鼻に届くと、よく分からない気持ちになった。快いか不快かも分からなかったが、それでも香油を付けることは止めなかった。
14になると、世継ぎの為に女が当てがわれるようになった。媚薬のような物も幾度となく飲まされ、ベッドに上がってくる女達は皆むせ返るような香油をつけてくる。今思えば、魔除けのつもりだったのだろう。夜になり、女が来る前には必ず香油を付け足した。
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