クリスタライズ・メモリー人生には一度しか聞かない言葉というのがある。
「はじめまして、七海春歌です」
まさかこんなことを言われる日が来ようとは。初対面でしか交わさない挨拶、つまり自分達にはもう二度と訪れることのないはずだった。
「えと、自分でもまだよく状況がわかってなくて……」
すみません、と頭を下げる仕草には緊張が見て取れる。カミュは胸に苦いものが溢れるのがわかった。
前回の逢瀬では熱く交わし合ったあの唇からなんと他人行儀な――
「呆然自失、Mr.カミュも可愛いところがありますネ~!」
豪華なデスクの向こうで暢気に言う早乙女をここぞとばかりに睨みつける。半ば八つ当たりなのだがこのやりきれない感情をぶつける先が他にない。
可愛いなどと成人男子が頂戴するには不名誉だ。そんな評価を誕生日に寄越したからにはその所員の可愛さを受け止めてもらおう、開き直り不機嫌を隠さない声で言った。
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