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    くにお

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    キリヲに夢で会う入間くんのお話です。
    短いです。(2300文字ほど)
    おかしいところあったらごめんなさい🙇

    花火を思い出すあれ、ここどこだろう。
    気がついた時には知らない場所に座り込んでいた。
    辺りは薄暗く、よく目を凝らす。
    どうやらここは川辺のようで、ふさふさした草の感触が指先に触れた。

    どこか懐かしいような、不思議な感覚だ。
    周りを見渡すが、人らしき影はどこにもいない。











    ズドーン!!

    突然大きな音が聞こえたと共に、僕の視界は辺り一面に広がる光に包まれた。


    花火。花火だ。
    ヒューンという音を出しながら、僕の前に現れたそれ。
    懐かしさの正体は魔界に来る前、いつか見たあの光り輝く花火の景色だった。

    「きれい…」

    自然と声が漏れた。
    確かにあの頃見た花火を思い出すものの、それよりも余程豪華というか、手が込んでいるなと思った。

    僕はそんな花火に目を奪われた。
    人間界に居たときのこと、魔界に来てからすぐのこと、今の僕のこと、色々な記憶が僕の脳を駆け巡る。
    思えば、魔界に来てからあっという間だったな。

    そして、花火の光と音、匂い。
    忘れられないあの日のこと……
    魔具研のみんなで作った花火を思い出す。
    先輩、今どこで何をしているのかな。
    思わずため息が出てしまう。





    「イルマくん!遅れてもうてごめんなぁ。」

    「うわぁっ!!!??」

    僕はふいに後ろから話しかけられ、素っ頓狂な声を出してしまう。

    だが、僕にはそれよりも気になることがあった。
    この声は、あの、先輩の……。



    思わず息が詰まり、何か言おうとすると頭が働かず何も言えない。
    ぼーっとする。
    まるで他人事のようで、言葉が出てこない。

    「おーい、どうしたん?何かあったんか?」

    彼にもう一度話しかけられ、ふと意識が戻ってきた。

    「キリヲ先輩!」

    「今までどこで何をしていたんですか!?」

    ずっと心の中で留めていた言葉が、みるみる僕の口から溢れ出して止まらなくなりそうだった。


    「今まで何してたかって…?」
    「あぁ、ごめんなぁ。実は……コレ!買ってきたんよ!」

    眩しいほどの笑顔でキリヲ先輩は手に持っていたビニール袋を差し出す。

    袋を開ける。
    そこには、ごちゃごちゃした文字の中で一際大きく、“線香花火”と書かれていたパッケージがあった。

    「キリヲ先輩、これって……?」

    「大きい花火やってんのに買うてくるんもおかしな話かもしれんけど、イルマくんとやってみたかったんや。」

    「さ、そないなことより、今は大きい花火の方見ようや。」

    そう先輩に促され、大人しく座って打ち上げ花火を見ることにする。

    正直、先輩に聞きたいことなど山程あった。
    休学してからどこで何をしていたのか。
    どうしてデビキュラムにいたのか。
    なぜ僕が……、人間ということを知っているのか。

    聞くなら今しかない。

    でも、まるで何もなかったような、昔に戻ったような、魔具研のみんなで花火をつくっていたあの頃のような、そんな顔、声、言葉で先輩が話すから。

    僕が聞きたいことなどは、そんなに重要なものではないかも。
    そんな気持ちにさせられてしまう。

    それにこんなに穏やかな気持ちで、穏やかな空気が流れていて、その空間を僕の声で壊したくなかった。

    だから、僕はキリヲ先輩に何も言わなかった。




    ぽつぽつと他愛もない会話をする。
    二人、肩を寄せ合って、大きな大きな打ち上げ花火を見る。

    まさにフィナーレと言っていいほど激しく花火たちが咲き始める。

    最後、今までの花火たちの中で最も大きく、激しく、華やかで美しく、そして儚く、燃え上がった花火が一瞬にして散っていく。
    それは、打ち上げ花火たちの終わりを告げた。



    「 いや〜圧巻やったなぁ。」

    しばらく経って、先輩が先に口を開いた。
    僕は先輩の言葉に同意した。

    「ほな、さっそく……これ、やろか! 」

    先輩はワクワクを隠しきれない様子で、無造作に置いていたビニール袋を持ち上げる。







    僕たちは一斉に線香花火に火をつけた。


    パチパチ……パチパチ……

    心地よい音が鳴り続ける。


    「 あのな、僕、ずっとこういうことやってみたかったんよ。」

    「急に言うのもなんやけどなぁ、イルマくんに会えて、話もできて、花火も見れて……。」

    「ほんま嬉しいわ。」

    それは、僕が魔具研で過ごした日々の、あの、キリヲ先輩と何ら変わらない。
    とにかく笑顔だった。

    この時間が永遠に終わらなければいいのに。

    そんな夢物語を思ってしまう。

    「はい…。僕も、キリヲ先輩と……」














    僕は目が覚めた。
    いつもの部屋。いつもの朝。いつもの僕。

    でも、不思議といつもより穏やかな気持ちだ。

    「あれ……。」
    「僕、何をしていたんだっけ……?」

    いくら考えても、何も思い出せない。
    でも、絶対に忘れちゃいけないもののような気がした。

    すると、煙のような匂いが僕の鼻をくすぐる。

    これって……。



    花火。花火の匂いだ。

    どこか懐かしくなるとともに、あの人のことを思い出す。













    あぁ。
    僕はまたいつもの日常を送る。

    どれだけ彼のことを考えても、僕の目の前に現れてくれるわけではない。

    でも、次会えたなら。

    ちゃんと向き合おう。

    ちゃんと彼の話を聞こう。

    ちゃんと僕の話も聞いてもらおう。



    僕は全部を拾いたい。

    何も諦めたくない。

    それは……、あなたもです。

    キリヲ先輩。



    今日も、魔具研究師団のドアを開ける。

    でも、いつもよりどこか晴れやかな気持ちだった。
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