一郎にとって山田零とは、清く正しく美しく、どこまでも完璧な父親だった。妻を慈しみ、子供との対話を怠らず、常に平穏な空気を身に纏っている。俺はそんな父親のことを心の底から尊敬し、愛していた。
だからあの日、あの時。俺と弟たちを置いて出て行ったあの瞬間、山田零は死んだのだ。そうでなければ許されない。
だというのに、あの男は俺の前に再び姿を現した。
一度ならず、二度も、三度も。
一郎の知らぬ『天谷奴零』という名前を提げて。遠く離れた西のディビジョンの代表だとおもてを上げて。過去に俺がチームを組んでいた白膠木簓をリーダーだと持ち上げて。
名前も、服装も、表情も、何一つあの時の面影など存在しないくせに。
俺はお前の親父だなどと、巫山戯た言葉を口に出して。どついたれ本舗所属などと、さも当然のように胸を張って。弟たちにすら真実を明かして、近づいて。チームメンバーと、大口を開けて笑い合って。
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