未来へ蕪木町へ光のシャワーが降り注ぐ。
「綺麗……」
思わず呟いてからハッとする。あの光はブラックパピヨンに向けてみこが放ったものだ。エンジェルの力を使い果たしたとしてもおかしくない。
「みこちゃん、ひびきちゃん!」
「無事でいてくれ……!」
考えていることは同じだったらしく、ギンを支えている日向からも祈るような呟きが聞こえてきた。早くみこ達のところに行って無事を確かめたい。しかし、周りには力を使い果たして倒れているギンやカズキに闇の動物たち。ここを放っていくなんて出来ない。
「日向ちゃん、もう少し頑張れる?」
「レナこそ」
「ふふ、さすが日向ちゃん」
不敵に笑った日向に微笑み返してパピヨンロッドへ力を込める。戦うだけが力の全てではないと知ったあの日のことを思い出す。マイクの形に変形したロッドへ歌声を乗せる。
てのひらからこぼれおちる光 貴方はどこへ行くの?
指先に触れた風が 私をさそうの
ひびきとみこの分まで歌う。届け、届け、届いて……!私の声で救えるのなら、この声が枯れ果てても良い!日向も所々掠れた声を張り上げていて、一緒に頑張ろうという気持ちを乗せてハモりを入れていく。柔らかな光がカズキを、ギンを、動物たちを包んでいく。
見えているものだけが幸せじゃないんだよって
教えてくれたのは 貴方でした
「!」
「ひびきちゃんの声……!」
力を、声を振り絞って日向と支え合いながら歌い続ける。いつも淡々としているように見えたひびきの等身大の姿。誰よりもみこを助けたいと思っているのはきっとあの子だ。
まっくらな世界で泣いていた 昔の貴方に教えたい
大丈夫だよ 世界ってきっと
あったかくて 輝いてるから
ひびきは泣いているのだろうか。涙を見せないあの子は強い子だと思っていた。最初こそ厳しくて怖い子だと思っていた。でも、弱さを隠して震える足を叱咤して立つ、強くあろうとする一人の女の子なんだと気付いた。みんな、弱くて強い、友達が大好きなひとりの女の子なんだ。頭がくらくらする。でもここで倒れるわけにはいかない!
届いて 私の声
大好きな貴方の胸の奥に
届けて この光
大嫌いだった冷たい世界を変えてくれた
ひときわ綺麗な光が弾ける。曇天を貫いて雲が消えていく。雲がなくなったことでやっと見えたのは目を閉じて落下していくみこと手を伸ばすひびきの姿だった。最後の力を振り絞って空へと手を伸ばす。みこちゃんとひびきちゃんを助けて、お願い……!日向も同じように手を伸ばしていた。
「ひびき!」
「ひびきちゃん!」
それぞれ伸ばしていた手を日向とレナは重ね、叫んだ。
「「届けえええええええええ!!!!!!」」
二人の手から伸びた光の帯が一か所へと収束されていく。光は空を舞うひびきの羽になり、力強く羽ばたいてみこの元へと昇っていく。
ありがとう 大好き
エンジェル達の声が重なった。
みこを抱えたひびきが地上に降り立つのを確認すると、がくん!と力が抜けた。倒れる、と思った時、温かさに包まれる。
「お疲れさま。……そして、ありがとう。俺たちを救ってくれて」
「カズキ、さん……」
よかった。目を覚ましたんだ。ギンに肩を貸されている日向と周りを駆け回る白く浄化された動物たちを見てレナは一気に安心して気を失ってしまった。
※
「卒業おめでとう、レナちゃん」
「カズキさん!」
卒業式が終わり、みんなと写真を撮ったり寄せ書きをしたりといった行動がひと段落して校門に向かうと校門の外には見覚えのある人物が立っていた。
「ありがとうございます……!我儘言っちゃってごめんなさい」
「ううん。呼んでくれて嬉しかったよ」
今日卒業式があることはカズキには告げていて、もしよかったら会いたいとも伝えていた。まさか学校まで迎えに来てくれるとは思わなかったけれども。二人で並んで歩き出す。
「友達はいいの?」
「はい。もういっぱい話したし、仲が良い子とはきっとこれからも会いますし」
「みこちゃんは?」
「陸上部の集まりかな。ゆうまも今日卒業だから。……カズキさん」
「ん?」
「私、卒業しました」
「うん。おめでとう」
「……その、もう、今日で制服着るの最後です」
「そうだね。似合ってたからちょっと残念かも」
「せ、選挙権もありますし!期日前投票してきました!」
「ちゃんと投票に行くのは大事だね」
「あと、えっと、えっと……お酒とかはまだ、飲めないけど……!グロテスクな映画とか!年齢制限引っ掛からないです!」
「レナちゃんそういうの観たいの!?」
「カズキさんと一緒なら見たいです!」
レナはうるうるとした目でカズキを見上げた。
「私!……私もう、大人です!って言ってもきっと、20歳になるまでカズキさんは答えてくれないと思います。だから、改めて」
にっこりと笑ったレナは大切な言葉を口にした。
「私、胡桃沢レナは……カズキさんのことが!大好きです!だから……私が大人になるまで待っててくれますか」
「うん。待ってる」
差し出された小指にそっと小指を絡めた。夏の海で交わした夢が現実になるまできっと、あと少し。