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    黄菜@カズれなアンソロジー開催!

    朱音(花砂)のパピエンオンリー用アカウント

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    監督:音乃音いろは
    新進気鋭の監督がパピヨン⭐︎エンジェルに初参戦!
    アニメDVD特典映像OVAからの参戦に先駆けてコメントをゲットしてきました!

    コメント全文は特典リーフレットにて!

    【パピヨン✩エンジェル】 アニメDVD第3巻キャラ別特典パック レナちゃん応援隊セット収録OVA燦々と降り注ぐ陽光に輝く華やかな笑みに水飛沫。夏の思い出作りにと訪れた浜辺のコテージは羽を伸ばすには充分だった。ひらり、ふわりと視界端を揺蕩う熱帯魚の様に可憐な水着に波打ち際の賑わいも夜は一転。何処からか時折囁く様に細く棚引く虫の声音が寄せては返す波と夏の夜のリズムを奏でていた。ひんやりとした砂浜の上、瞬く星々にそっと伏せた瞼。仄かな暗闇に心地良く沁みるひと時の永遠、然しそれは聞き馴染みのある柔らかな声により瞬き星の光をその眼に宿す。

    「レナちゃん、……探したよ。こんな所に居たんだ?」
    「カズキさん?どうしてここに…?」
    「バーベキューの後君の姿が見えなかったから探しに来たんだ。みこちゃん達が花火をやるんだー!…って、張り切ってたよ?」
    「あっ、そうだった…!花火、すっかり忘れてました。コテージのお庭から見えた海があまりにも綺麗で……。ふふ、綺麗な貝殻で許してもらえるでしょうか?」
    「レナちゃんのお眼鏡に叶うものなら皆も許してくれるよ。俺だって、可愛いレナちゃんにお願いされたら何でも許しちゃうかも。」
    「も、もう…!カズキさんはそうやってすぐ私の事をからかうんだから…。」

    “可愛い”なんて、皆に言ってる事だって分かっている筈なのに。ぷしゅう、と夏の日差しにさえ負けない程に熱くなる頰を両の手で隠して視線をふい、と月が照らす海に移す。
    そんな私の隣に腰を下ろし、ぐうっと伸びをしたカズキさんは共に夜の静寂に耳を傾けていて穏やかな時間が私達を包み込んだ。

    「……海、綺麗ですね。」
    「そうだね。昼間も良かったけど、夜の海は静かで良い。」
    「…カズキさん。もしかして、ちょっぴり疲れていませんか?」
    「えっ?」
    「私を迎えに来た、というより……静かに過ごしたくてここに来たみたいですもの。」

    そう言うとカズキさんはほんの少しだけ眉をハの字にして、皆には内緒だよ、と笑みを溢した。花火も、私を探しに来てくれたのも、カズキさんのことだからきっと本当の事だろう。けれど、こうしてほんの少しだけでも見せてくれる彼の素の姿が、私の隣なのがどうしようもなく嬉しくて。
    緩々と笑む口元を見られたくなくて、両の膝を腕で柔く囲い双丘にむにりと熱い頬を当てる。ひんやりとした膝小僧に溶けてゆく頬の熱が、これ以上自惚れてはいけないと言わんばかりに理性の糸をぴんと張り詰める。

    (それでも、今のカズキさんは……。)

    私だけが、知っている姿。

    そんな夢見心地な淡い鼓動のなか、瞬く視界に映る星々はまるで私の胸の中を透かしている様で。波打ち際で泡立つ白波も、月の明かりを淡く映す外洋も。地平線から順に瞬く数多の星も全部、私と彼だけが見ている景色。

    思考を満たすだけでもふわふわと暖かな心地が満ちる胸の内。ちら、と見遣る彼の横顔に、このまま時が止まれば良い、なんて、

    「……わ、あ!カズキさん、みて、流れ星!!」

    そう、願った視界の端。爛と輝く一筋の星の尾に先程までの願いは何処へやら。託す思いを背負う白の瞬きに両の目を閉じて願うのは夢の夢。胸元で組んだ両の手の指が解ける頃には、既に消えた星の尾を探す彼の眼差しが淡く揺らぐのみ。

    「カズキさん、願い事……できましたか?」
    「……いやあ、俺は見つけられなかったよ。レナちゃんは凄いね、運が味方してる。」
    「え?……ふふ、そんな事ないですよ。…カズキさんだって、次は見つけられます!」
    「そうかな?……そうだと、良いけど……。」
    「……カズキ、さん……?」

    問い掛けに応じずくらりと揺らいだ硝子越しの眼差しに覗くのは仄暗い陰りの色。共に過ごし行く短くも長い時の揺らぎのなか、彼は時折重く暗い色を持っていた。普段の姿からは想像も出来ない、胸の内まで染める程の暗色に背筋を震わせる警告の音色。

    「空を流れるひとつの星も、羽化して羽ばたく夢描く蝶も。誰かが見付けてくれなければそれは存在しない事も同じ、……そう、思わないかな。」

    ————レナちゃん。

    そんな、同意を求めるかの様に。まるで、救いを求めるかの様に響くカズキさんの声音に震える胸の内は、酷く寂しく独りを嘆くかの様だった。

    静けさに満ちる、波の音色。二人ぼっちの呼吸音だけが響く、夏の夜の浜辺の虫達の合唱会。

    言葉に、頷くのはきっと簡単なことだった。

    けれど彼のそのままを、ありのままの言葉を、受け入れて終わるだけの存在には、なりたくなかった。

    「……私は、…私は、そうは思いません。」
    「………えっ?」

    震える声に、彼の音が重なる。疑問符は決して彼の否定ではなく、こちらの胸の内へと淡く響く寄り添いの音。

    「誰もが見付けられなくっても、ほんの一瞬だけ輝く光だったとしても……。全部、私が見付けます。」

    硝子越しに瞬く驚きに満ちた双眸に、伸ばした手指が彼の頬をなぞる。夜風にそよぐ芯のある毛先、見詰めるその先もまた動揺に揺らいでいた。驚くほど冷えたそこを温める様に包み込む手のひらを静止する指先。ふわりと絡め取るのは少しだけごつごつとした、私とは違う“彼”の温もり。

    「私、諦めないわ。独りで寂しく膝を抱えるひ 人も、人知れず草の陰で果てるその命も。こうやって、」
    「…っ、レナちゃん、」
    「……こうやって、手を差し伸べて、温めて。……ふふ、カズキさんのことも、私は諦めたくないですから。」

    絡まったままの互いの手指をそっと胸元に引き寄せる。どきどきと鳴り止まない胸の音は、どうか気付かれませんように。

    ふと手元から視線を上げれば、カズキさんの頰は先程よりも随分と頰が赤くなっていて。きょとりと首を傾げた、その瞬間。

    「おーーい!レナー!」
    「海に行くなら誘ってよね!花火持ってきたからみんなで遊ぼう!」
    「わ、わ、わ!み、みんな…!」

    遠くから響く賑やかな声に、ぱっと手が離れ思わず立ち上がる。青いバケツに花火の彩り。先程までは主役ですらあった波の音さえ囁く程に、皆の方へとはたはたと手を振る。

    「……どうやら、貝殻のお土産は探さなくても良さそうだね。」
    「ええ、そうみたい。今日は少しだけ、夜更かしさんになりそう。早く行きましょ———っきゃあ!」
    「っ、レナちゃん!」

    一歩、踏み出したその瞬間に砂に足を取られて蹌踉めく身体。砂ならばきっと、そこまで痛くはないだろう。そう覚悟した両の眼がきゅっと閉ざした暗闇は、しかしいつまで経っても地に落ちる事はなく耳に届くのは確かな胸の音。

    「……あれ、私…?」
    「レナちゃん、レナちゃん!……大丈夫?急に走るのは危ないよ。怪我なんてしたら折角の思い出が台無しだ。」

    耳元に降り注ぐのは何時もより近い彼の言の葉。ぎゅっと身体を包み込む温もりにようやく気付く。私、カズキさんに抱き締められてる……!?

    「はわ、あ、っか、カズキさん!もう大丈夫、大丈夫ですからぁ…!」

    ぷしゅう、とゆでだこの様に熱く火照る頰はきっと、歩み寄る皆には見えていなくとも彼にはばっちりと見えているだろう。わたわたと慌てる私の身体を優しく支える彼の手を頼って今度こそしっかりと砂を踏み締める。

    お礼の言葉、上手く伝わったでしょうか。危なっかしいから、なんて、カズキさんの手に重なったままの私の右手。まるでお姫様をエスコートする王子様みたい。なんて、ずいぶんとロマンチックな夢を見ているみたい。

    「……俺も、君の手を離さないよ。」

    通りすがりの波の音に攫われた小さな呟きは背後の流星。夏の思い出はまだ、これからもたくさん重なってゆくのでした。
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