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    ささじま

    @gsjm173 / デイリーお絵描きの記録用。ラフとか平気であげます。

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    ささじま

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    ※死ネタ注意。 単発です。幻想小説の真似ごとということで、深く考えないで読むことをお勧めします。2021/3/18

    ##メル燐

    髪の毛ほどの細い月が昇っていた。
     HiMERUは月を背に、荒地をぶらぶらと歩く。手には大きな刷毛と、筆。足元にはゴロゴロと大きな岩が転がっていたが、降るような星空の下でも夜目が効いているからか、転ぶことはなかった。
     いくらも歩かないうちに、大地に直径10メートルほどの孔が現れる。その孔はHiMERUがたどり着いた淵から緩やかに傾斜が形成されており、坂を下れば3メートルほど地表から潜るようになっていた。
     孔の底に着いて、HiMERUは小さなコーンが立っている場所にしゃがみこむ。
    「お待たせしました」
     そうポツリと呟いて、HiMERUは足元の土を刷毛で払い始めた。
     3回ほど掃いたところで、不自然に均一に並んだ石の列が姿を表す。HiMERUは石と石の隙間を筆で丹念に掃いて土を取り除いていく。邪魔な石が出てきたら丁寧に手で取り除いて、また土を掃く。
     孔の底に光はほとんど届いていないはずなのに、HiMERUにはその石がよく見えていた。
     HiMERUが見間違えるはずがないのだ。
     なぜならHiMERUはずっとそれを探していたのだから。
     孔の外では風が渡っているらしく、時折びゅお、と音を立てて空気が吹き込むが、孔の底までは届かない。HiMERUはそんなことにも気づかず、黙々と作業を続けた。何も苦にはならなかった。
     掃いて、どかして、拭って。
     掃いて、掃いて、びゅお。
     拭って、掃いて、掃いて、掃いて。
     そうしてどれくらい作業したのかもわからない頃、石の列はようやく本来の姿に近くなった。
     それは、人の骨の形に並んでいた。
    「ようやく会えましたね、天城」
     人の形をした石は喋らない。とうの昔に成分が鉱石に変わってしまい、化石と呼ばれるようになった石は、亡霊のように形だけを今この世に留めている。
     それにどんな意味があるのかと言う人もいるだろう。
     しかし、HiMERUには意味がないとは思えなかった。ほらだって、こんなにもはっきり、爪や牙が残っている。自分よりも強大な相手を引っ掻いた爪と、あんなにも一生懸命歌って喋っていた牙だ。
     これを無意味だと言ってしまえば、天城燐音というアイドルは、今度こそひとりぼっちになってしまう。
     HiMERUはそっと石を撫でると、また作業を再開した。
     朝になれば岩盤は運び出され、どこかの博物館に持ち込まれてしまうだろう。そして5年かけてゆっくりと、この化石を残した存在について研究され、展示室の隅っこに飾られることになるのだ。
     かつて、こういうアイドルがいました、と。
     そうなったら、天城燐音のことだから、大層不満に思うに違いない。
     だから月がない夜に訪れて、展示の前で思いっきり笑ってやるのだ。HiMERUに散々振り回した意趣返しだ。それくらいは許してもらわねば。
     そして油性マジックでキャプションに書き加えてやろう。天城燐音がどういう男だったかを。
     その日を夢想しながら手を動かすうち、HiMERUの口元はわずかに緩む。
     ちょうど、空に浮かぶ月のように。

     そんな、夢を見た。
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