「潮江先輩、すみませんでした……」
「気にするな、間に合ってよかった。次からはちゃんと確認するようにな」
「はい!」
ありがとうございました! と直角のお辞儀をして、後輩は足早に自席へ戻って行った。文次郎は机上のマグカップに口をつけると中身を一息に飲み干す。朝淹れたっきり放置されていたコーヒーはすっかり冷め切って、心なしか味も変わってしまったようだった。パソコンの隅に視線を投げれば既に15時を回っている。今日は出勤してからというもの、イレギュラーに次ぐイレギュラーに巻き込まれっぱなしだった。大物は諦めて明日に回すとして、今日中に片付けておかないといけない書類仕事が幾つか残っている。これ以上何も起きてくれるなよ、と祈りつつ、空のカップを掴んで文次郎は席を立った。
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