とあるゲームをプレイした時の呪詛みたいな日記 自分の創作の原動力が、案外怒りなのではないかということに気付いたので、近年稀に見る程の怒りを覚えたゲームについて、紹介させてほしい。なお、一周回って大好きなゲームだ。絶対に許さない。
なお、そのゲームは続編で汚名返上していることについて、先に補足しておく。
そのゲームとは、Nintendo Switch「のび太の牧場物語(1作目)」である。
ほのぼのスローライフとは程遠い、過酷なのび太の労働環境に心が耐えきれず、30時間のプレイでギブアップした。
物語冒頭、のび太といつものメンバーが裏山で夏休みの自由研究のために集まっている場面から。のび太の頭に落ちてきた何かの種を育てるのを自由研究とするのが良いのではという案が出て、それを裏山に埋めたところ、なんとその種が急速に大樹に成長した。それと同時に、時空の乱れが発生し、のび太、ドラえもん、しずかちゃん、スネ夫、ジャイアンの5人はそれに巻き込まれてしまったのだ。
気がつくと異世界。5人の前にはなんかの女神がいて、ドラえもんの四次元ポケットは予定調和の如く無い。そのあと、その世界の住人と知り合うことができ、この村では子供でも働かなくてはいけないんだと言われ、それぞれ仕事を手伝うことになる。
・ドラえもん:パワハラ気質な村長の家で仕事を手伝わされている。のび太くんを助けたいという言動は見え隠れするが、パワハラ村長がうるさいので動けないみたいな雰囲気。
・しずかちゃん:病院で看護師をしている。いいのか? ダウナー系っぽい口が悪い医者に何か言われても言い返すこともなく、困った顔をしている場面が多かった気がする。
・スネ夫:食堂でウェイターをしている。比較的扱いがマシに見える。
・ジャイアン:鍛冶屋で働いている。比較的扱いがマシに見える。
のび太だけ、散々村内を歩き回ったが仕事が見つからない。どーしてぼくだけ、と落ち込むのび太に、第一村人が提供してくれたのは、雨漏りのするボロ小屋が併設された荒地だった。ここを開拓して勝手に労働しろということらしい。正気か?
まずは石を拾いつつ、畑を耕す。しかし、のび太の体力が無さすぎるため、すぐにベッドで休まなくてはならない。
のび太を労働させていると、腹が減る。何か食べさせたいが、金も食料もない。仕方なく、その辺に生えてるタケノコを食べさせる。
とにかく金がない。畑の石をどかすのに農具が必要になるが、それを稼ぐことすらままならない。金がない。とにかく金がない。
仕方なく、のび太を炭鉱に潜らせることになる。のび太の牧場物語から、ここでのび太の炭鉱物語にゲームがジョブチェンジするのだ。
のび太は朝6:00に起きる。せめて畑の作物でのび太の飢えを凌いであげたくなって、金が必要なのは今だけだからと炭鉱に向かう。移動だけで7:00になる。慌てて採掘を開始する。しかし、のび太の体力は100しかない。1行動につきいくらかの体力を消耗してしまう。
体力0になるとのび太はその場で気絶して、病院に担ぎ込まれてしまう。そして、病院で目覚めると、ダウナー系の医者にこう言われるのだ「倒れるなんて情けないな」と。しずかちゃんはその医者の後ろで、眉を八の字にしてのび太を見ている。おい、せめてなんか言えよ。俺もお前も小五だぞ。
そうやって日々の炭鉱物語に勤しむのだ。とにかく金がないので、体力が0になる寸前まで働かせ、ギリギリになったら炭鉱前の空き地に移動して昼寝をさせ、体力をいくらか回復させる。少し回復したらまた炭鉱で穴掘りさせてまた昼寝。そうやって23:30まで労働をさせて、ボロ小屋に戻る。0:00までに帰れば、翌日また100の体力で炭鉱に潜れる。
のび太が一体何をしたんだ。他のみんなは何故誰ものび太を気にかけないんだ。ジャイアンやスネ夫に至っては、自分の就職先を自慢する台詞まである。のび太が可哀想だとは思わないのか。こちとら小五だぞ。お前も小五だけど、俺も小五だぞ。
そうやって労働を続けると、僅かばかりの資金を確保して、畑の整備をし、鶏を飼うことができるようになった。畑の作物に関しては、とにかく金がないからひたすら出荷し続けている。のび太本人は、タケノコをそのままとか、キノコをそのままとか、料理ですらない、調理すらしてない野食を日々繰り返している。ここは中世ヨーロッパか?
とはいえ、少しずつ畑を広げ、鶏の数も増やすことができた。20時間かけてそういえば牧場物語だったと記憶を取り戻しつつあった頃、村のコンテストとやらを知った。なるほど、育てた作物をコンテストに出して、品評会で良い結果を残せれば、高く買ってもらえるようになるのか。
6:00から23:00までの長時間労働、炭鉱と畑と鶏小屋を往復して体力のギリギリまで働いて、ボロ小屋で泥のように眠る日々。このコンテストを短期目標として、頑張ろうではないか。ここを乗り越えれば、のび太のスローライフが始まる可能性がある。
しかし、体力が足りない。うっかりすると病院にまた担ぎ込まれて「情けない」とかいう、大人からのあまりにも辛辣な暴言を受けてしまう。そんな時、病院でとある物を見つけた。
エナジードリンク──魔剤である。体力の最大をアップするドリンクと、即座に体力を回復するドリンクがあったのだ。背に腹は変えられない。季節が進みすぎる前に、牧場を牧場としてまともに稼働させなくては。のび太にすぐに購入させ、小学生相手にエナジードリンクをガブガブ飲ませる日々が始まった。
のび太の炭鉱物語から、さらにのび太の限界社畜物語にさらにジョブチェンジしたのだ。
もう後戻りはできない。体力の最大は120になった。もう20本も魔剤をキメている。とにかく金が必要である。牧場のわずかな生産品を即座に出荷し、足りない資金分は魔剤をぶち込みながら炭鉱で朝から晩まで労働させる。しかし、きっと今だけだ。今だけなのだ。のび太にこんな過酷な児童労働をさせなくてはいけないのは、今だけなのだ。
そしてトータル30時間をかけ、ようやくカブの生産にたどり着いた。コンテストだ。これでコンテストに出られる……! 品質はおそらく悪いが、それでも、星5段階中の2くらいにはなれるんじゃないだろうか。
そうして、村人が集まるコンテスト会場に向かい、ウキウキでのび太を待機させる。
パワハラ村長が発表する。
のび太と私が必死になって育てたカブは、星0.5だった。
私は、Nintendo Switchのホーム画面に戻り、そのままゲームを終了させた。
許せねぇよ! 許せねぇよ……! のび太はあんなに頑張ってたじゃないか……! 誰も手を差し伸べることもなく、通りかかった村人は話しかければ全員素っ気ない態度。スネ夫、ジャイアン、しずかちゃん、ドラえもんですら、この村の中ではのび太に塩対応。のび太が何をしたって言うんだよ! ただ必死に働いているだけじゃないか!
プレイを終えた私は、いまだに世界に蔓延る児童労働に対する強い憎しみを覚えた。その憎しみのままに「児童労働 寄付」で検索し、1000円NPO団体に寄付した。
そのせいでその年の年末調整が面倒になった。
どうやら次のシリーズでは、私があげ連ねた点が全て改善されているらしい。畑は誰かが手伝ってくれるし、食事は仲間たち全員ととることができる。
しかし、私のトラウマは根深い。未だ信用できず、「のび太の牧場物語 大自然の王国とみんなの家」は、積みゲーとして自宅に保管している。
ここまでを総括すると、児童労働は絶対に許してはいけない、となる。世界からの児童労働の根絶を願いたくなるゲーム「のび太の牧場物語」の思い出は、以上だ。