「半夏生」 加々知の部屋に久しぶりに戻ってきた時の最初の印象は、暖かい、だった。
暖房をつけっ放して出かけたから、というわけではないだろう。この部屋を留守にして一日近く経っていると彼は言った。
僕の部屋のエアコンはついたり消えたりしていた。それは桃タロー君がしていたことだ。基本的に彼が部屋に来た時につけて、彼がいなくなった後しばらくして、気持ち悪いと僕が消す。地獄(仮)の真冬にエアコンをつけずに過ごすのは危険なことだと知っていたが、部屋にこもる空気の温さが今の僕には耐えられなかった。
だから、エアコンをしばらく消していた部屋の寒さというのは身を以て知っている。それだのに、加々知の部屋は暖かい。
加々知は、部屋に入るまでずっと僕の手をぎゅうと強く握ったままで歩き続けた。心配だったのだろうか。また僕が彼の前からいなくなることが。
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