その顔は反則かもしんない/💎夢「キシベロハン?」
初めて聞く名前。仗助くんのお友達? 彼女の言葉におれはニヤける口元を隠せなかった。なぜかって? そりゃあ、彼女の世界に余計な男がひとりでも少ないっつーことはカレシとしてこの上なく喜ばしいことだからだ。しょうもねぇ独占欲かもしんねぇけど、おれを見上げる無垢な瞳にまなじりが熱くなった。
繋いでいた手を離して彼女の頬の、いちばん膨らんだ部分を親指で撫でる。片目を閉じたまつ毛が爪先に触れた。
ーーキス、してぇな。漠然と考えが浮かんで彼女のくちびるを見つめる。おれのまばたきの合間に彼女の瞳がとろんとまどろんで、次のまばたきの間に薄い瞼がゆっくりと降りていく。彼女の横顔にかかる髪を優しく撫でて、そっと耳にかけてやる。そのまま耳の輪郭に触れて耳たぶから頬にかけて手のひら全体で顔を支えた。……小せえ。おれの手のひらじゃ彼女の頬が余ってしかたねぇ。彼女が小さく身じろぎした気がした。
おれの前髪が彼女の頬から目尻をくすぐって、鼻と鼻が触れて、くちびるがーー
くちびるがふれるその瞬間、大音量のクラクションが耳をつんざいた。振り返るとエンジン音を響かせながら路肩に停まったスポーツカーには見知った顔がある。片側に流した髪型、弁当に入ってる薄っぺらい仕切りみてぇなヘアバンダナ、不躾にこちらをジロリと睨む二重ーーサングラスをずらした岸辺露伴がそこにはいた。
「オイオイオイ、ぶどうヶ丘高校は不純異性行為は禁止じゃあないのか? ……誰かと思えばクソッタレ仗助じゃあないか」
いやらしく片方の口角を上げて声を荒げる露伴は面白いおもちゃを見つけた、というような顔だった。……コイツ、おれだって分かって声かけやがったな! 露伴の白々しいセリフに沸々と怒りが湧いて、奥歯を噛み締める。
「露伴テメェ……!!」
降りてきやがれ! というおれの叫びはとっくに届いておらず、排気ガスにまみれた空気を吸い込んでむせ込んだ。
「……クソっ」
走り去る車に悪態をつく。思わずくちびるを噛み締めた。
くんっ、と学ランの裾の引っかかりに気がついて露伴を追おうとしていた気持ちが霧散する。ゆっくりと視線を辿ると細い指先がたわんだ学ランの生地を控えめに摘んでいた。その指先から腕、顔と視線を上げるとーーああ、ウン。なんつーか、やっぱりキスしてぇ、って思っちまった。