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    三咲(m593)

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    三咲(m593)

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    アレス&ラフロイグ。パラレル。もしアレスさんが本来の姿を封印されていなかったら。

    ##オレカバトル

     あんなに騒がしかった感覚が、今は凪のように澄んでいる。肉体はすでに無いのだろう。だから呼吸が出来なくても構わないのだ。熱さもなければ、皮膚が灼ける痛覚もない。身体という器を取り去るのが、こんなに穏やかなものだとは思わなかった。

     それでも未だ、魂という黒煙だけは残っていた。なにもない身体では留まることも出来ず、ただ吹かれるまま流されていく。
     視界はとうに失っている。ならば今「見えている」ものは何なのだろう。黒と白の螺旋が、見渡す限りに絡み合い、どこか一点へ向けて伸びている。あの世にしては前衛的で、美しいとさえ思う。

     このまま身を任せるのも悪くない。だが「自分」ならそれを許さないはずだ。形の無い腕を何度も伸ばし、ようやくそばの一すじをつかみ取った。


     また見られている、と思った。フードを目深に被り直し、足早に廊下を抜ける。並び立つ柱は深い森のようでいて、しかしこの身を隠すには均等すぎた。あらゆるものが揃っている場所では、特徴が無いものは逆に目立つ。ただの不揃い品ならまだしも、貼られた身分のラベルが、すそと足をもつれさせる。
     今日に限って、そこかしこに人目があった。集まりでもあるのかもしれないが、部屋に籠っている身には、外の様子は分からない。階を降りるようになった今でさえ、顔ぶれはろくに分からないままだ。

     陰に紛れながら、当てもなくふらふらとさ迷った。たずねる当てもないのに、人探しなど到底無理だったのだ。今更のように気がついて、深くため息をついていた。それも聞かれないように、勤めて静かにゆっくりと。
     そんな努力を、快活な声が台無しにした。柱の向こうで、誰かが手招きをしている。年下の少年に見えるが、少ない中でも見覚えのない顔だ。気付かなかったフリで、通り過ぎようとしたところを、しっかり呼び止められてしまった。観念して答えれば、少年も声を潜める。

    「お前、さっきから見てたけど、どうした? 追われてるのか?」
    「いや。……そうかもしれんな」

     首を振ったまま、思わず苦笑をこぼしていた。自分はずっと逃げている。それもずいぶん以前から。
     そんな返答に首を傾げた少年は、それなら、とローブのそでをつかむ。かばうような位置に立ち、辺りをうかがいながら、廊下の先を指さす。構わないと言う前に、すでに歩き出している少年に、どんどん引っ張られてしまっていた。

    「隠れられそうな場所を知ってる。とにかくついて来い」


     大きなアーチをくぐると、特有のにおいがほおを包んだ。古いインクと紙が綴る無数の英知。自分がその一部になるような感覚が、意識をどこか遠くに溶け込ませてくれる。
     なるほど、と感嘆した。並び立つ本棚は、立体的な迷路でもあり、身を隠すにはうってつけである。この場に用があるとすれば、学に従事する者でもなければ、なにかに没頭している物好きくらいだ。

    「やっぱりここにいたな、ガープ!」
    「アレス様。図書館ではお静かになさってくださいと――」
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