ガチ恋?「あ」
見慣れたピーナッツ頭が待ち合わせ場所に見えてくる。8年前の自分はピーナッツと待ち合わせる時が来るなんて夢にも思ってなかっただろうな、と思いながらも駆け寄る。
「すみません、待ちました?」
「全然!僕が急に呼び出して来てもらっちゃったんだし、気にしないで〜」
「言葉とは裏腹に圧がすげえな、やめろやめろ寄ってくんな」
いつもの軽口で距離を詰めてくるマメ科の化け物、改めピーナッツくんは急に僕を呼び出した。
年に1回、あの忌々しいクリスマスに会うだけの交友だったはずだが、何かトラブルでもあったのだろうか?
「クリスマスぶりだね!刀也くん!」
「あの節はどうも…来年は本当にナシでもいいですからね」
「全く、つれないなあ刀也は〜」
「キッッッツやめろそれ」
お約束と化した軽口の応酬に2ヶ月前程の苦行を思い出し、苦虫を噛み潰したような顔をしているとピーナッツくんが本題を話し出した。
「今日刀也くんを呼び出したのは〜〜〜じゃんっ!これのためで〜〜〜す!」
そう言って目の前に差し出されたのは綺麗な包装紙に包まれた箱だった。
「なんですか?コレ」
「まあまあ!開けてみてからのお楽しみ♡」
「ハイハイ開けますね」
キモ台詞を受け流しながら包装紙を開いていくと出てきたのはチョコレート。何?なんでだろうかとジロジロ見ていると少し照れたようなピーナッツくんが口を開いた。
「え〜〜〜っと、そろそろバレンタインじゃん?だからさ、なんか、本命?的な!」
「あ〜〜」
バレンタイン。ガチ恋売り、アイドル売りをこよなく嫌う自分には関係の無いイベントである。
「ありがとうございま、す?一応。でもなんで急にバレンタインとか言い出したんですか」
「僕たちも出会って8年目じゃん?そう思ったらクリスマス以外も楽しみたいなあ、なんて…」
明らかにピーナッツの皮にしか見えないその頬が紅潮する。恥ずかしそうに足で床を蹴り、こちらを見やる。やる人によってはいじらしいと感じるその行動を見ながらいつも通りではない雰囲気に呑まれそうになる。
「は?いや今日のピーナッツくんガチ感ヤバくないですか?企画?録ってる?」
「…録ってないよ。」
「あー……クリスマスだけで良くないですか?そういうの、」
「そ、だよね。うん、ごめん。キツいか、アハハ。うん、ごめん!忘れて!」
「は、え、」
「えっと、……ガチチョコ渡してみたドッキリでした〜〜〜〜〜!騙されちゃって刀也くんったら可愛い〜!撮れ高ありがと!ほらそれ返して返して!」
傷付いた顔を一瞬で隠し、いつもの雰囲気に持っていこうとするピーナッツくんに、今素直に返したら何かが変わるような、変えてしまってはいけないような気持ちになり、チョコレートをピーナッツくんが届かない場所まで持ち上げる。
「…何してるの、返してよ刀也くん。」
「………折角だし貰っといてあげます。」
「えっ」
「勿体ないし、チョコ好きだし」
「……刀也くん」
「ありがとうございます、いただきます。あ、お返しは期待しないでくださいよ。」
じゃあ、と一方的に別れを告げ、ピーナッツくんに背を向ける。背を向ける直前に見た笑顔に少し安心したことは、墓まで持っていこう。