マーベラスの推し活聖なる完璧の山の中にあるネメシスの私室。その部屋の中には、主であるネメシスがいるのは勿論だが、その他に一人、部屋のど真ん中を陣取って座っている人物がいた。当の主は追いやられ、辟易とした表情(マスクをしているので推測だが)をしている。
完璧・無量大数軍の中でも古参で実力も高く、完璧超人は皆平等と言いながらもリーダー格を担っているネメシスが何故、自分の部屋なのにこんなに居心地悪そうにしているのかと言うと。
「キュワーッ!今の見たかネメシスよ!こんな格好いいラーメンマンなかなかレアだぞ!!いや、いつも格好いいがな!!」
こいつのせいだった。
まずは経緯から説明しよう。
完璧・無量大数軍の大半のものは生き返った。そして悪魔超人も然り(生き返った経緯などは省略する)
そして正義、悪魔、完璧超人による三属性超人不可侵条約を再度締結し、平和が訪れた。勿論すぐに蟠りがなくなったわけでないが、皆で平和を目指してそれぞれ努めていた。
そんなある日、ネメシスはマーベラスに呼び止められる。相談したいことがあるから、後で部屋に来てくれと言う。完璧超人の中でもリーダーとして皆を引っ張ることの多いネメシスは、他の完璧超人から相談を受けることが多い。そして元来、面倒見が良く、頼り甲斐のあるネメシスは嫌な顔をすることなく話を聞いてくれるし、助けてくれた。以前ような取っ付きにくさも無くなった今、いつの間にか相談事は万事ネメシスへ、というのが暗黙の了解になっている。
だがマーベラスが相談とは珍しい、とネメシスは思った。皆何かしら大なり小なり相談事を持ち込むのに対し、マーベラスからは初めてだった。
その日の練習後、ネメシスは約束通りマーベラスの部屋に行った。しばらく何てことのない雑談をしていたが、徐にマーベラスが居住いを正す。つられるようにネメシスも背筋を伸ばす。本題に入るらしい。
「今から言うことは、他言無用で頼む」
「わかっている。口は堅い」
「そうか、助かる。実はな、俺はラーメンマンを推しているんだ」
「…」
「…」
「は?」
「だから!俺はラーメンマン推しなんだ!」
そこからはマーベラスの独壇場だった。
「まず顔がいい!あのバランスの取れた顔!ニヒルな口!髭もバランスがいいんだ!あれは長さを計算して整えていると思うか?俺は毎日ミリ単位で手入れしてると推測する!俺もあんな髭にしようと思ったんだが、あまり生えないから諦めたんだ。いつか付け髭でもしようかと考えている。本当は辮髪も真似したかったんだが、あまりやりすぎると本人にバレるだろう?だから我慢しているんだ。けどよく考えたらいけそうじゃないか?どう思う?このヘルメットがあるし、ラーメンマンの前で外さなければバレる心配は、」
「ちょっと待て!」
「…何だ」
「一旦整理させてくれ」
ネメシスはパニックだった。処理しきれない膨大な情報を頭に無理矢理叩きつけられたのだから、パニックにならないはずがない。
「一つずつ行くぞ。ラーメンマンはお前にとって、その、」
「推しだ」
「推しとは、」
「簡単に言うと、俺が推している人物という意味だ。好感を持ち、応援したいと思っている人のことを言う」
「なるほど…それで、お前の相談というのは、」
「俺の推しに対する気持ちを聞いてほしいんだ」
「何故俺なんだ」
「キュワ。それは一番文句言わずに聞いてくれそうだからだ。揶揄うこともしなさそうだ。あとは、俺が一度死んだ後にラーメンマンと戦っただろう?勿論映像では確認済みだが、ネメシスの目線で話を聞きたい。より理解が深まる。それにラーメンマンはキン肉マンと仲がいい。そのキン肉マンとネメシスは血縁者なわけだから、ラーメンマンに関する情報を聞きやすいと思った」
「…そうか」
思いの外、ちゃんとした理由だった為、ネメシスはそれ以外何も言えなかった。
「それで続きだが、」
「まだあるのか」
「当たり前だが?」
その日は二時間ほど(一方的に)話した後、ネメシスは自室に帰ることができた。思っても見なかった方向からの相談(?)事だったが、まあ聞くぐらいなら、とネメシスは自分を納得させた。だがこの選択は後から後悔することになる。
「今の技を見たか?華麗過ぎて目に毒なんだが…」
「キュワァ…今の表情駄目だ…一生推せる…」
「か、開眼っ!開眼したぞ!見たかネメシス!!」
「見た」
そうして冒頭に戻る。ネメシスは自分の部屋のに部屋の隅でじっとしているのは、マーベラスが我が部屋のように振る舞っているからである。
何故ネメシスの部屋にいるのかと言うと、聖なる完璧の山には様々な超人のデータと映写機が置いてある部屋があるのだが、ネメシスは個人でも再生機材を持っていた。マーベラスは皆が出入りする映写室は利用したくない為、ネメシスがそれを所有していると聞いてからは、事あるごとにネメシスの部屋を訪れては、ラーメンマンの試合の映像や、どこで手に入れたかテレビ番組やニュースで流れる正義超人を特集した映像を見てキャーキャー言っているのである。
「キュワ〜、最高だった」
マーベラスは持って来たデータを連続で三回ほど見た後、やっと満足して電源を落とす。
「そういえば今日は報告があるんだ」
マーベラスは懐からあるカードを出し、自信満々にネメシスに掲げた。ネメシスはそれを読み上げる。
「…ラーメンマンファンクラブ、会員No.00000。…ファンクラブ?」
「俺が作った」
ドヤ顔でマーベラスは宣う。ネメシスは呆れた。
「大体、おかしいと思わないか。正義超人で、アイドル超人でもあるラーメンマンの個人ファンクラブがないなんて。普通あるだろう、いや、あるべきなのだ!だから俺が作った。勿論本人にバレるとまずいから非公式になるが」
「だからNo.00000なのか」
「キュワキュワ。名誉な事だぞこれは。俺はこれを心に、これからの人生を生きていくんだ」
「…そうか」
「ネメシスも入るか?今入会すると会員ナンバーはNo.11023になる」
「結構いるな」
「作って三日で一万人突破だ。すごいだろう」
「そうだな」
そんなにいるとは意外だった、とは流石に言えなかった。
別の日では。
「俺とラーメンマンが戦った映像を見返しているが、よく考えるとこれは凄くないか?」
「どれだ」
「このキャメルクラッチだ。通常ならば背中と首にダメージを与える技だが、ラーメンマンの生かす拳という素晴らしく、そして崇高な信念のおかげで、キャメルクラッチからスリーパーに切り替わっている。まずそのレアリティが高い。有難みしかない。そしてそれが凄い。どうだ!この距離の近さ!!顔近っ!!推しの顔近っ!!よくこの時平気だったな俺。今これをされたら顔が良過ぎて絞め落とされる前に気絶する自信がある」
「それで気絶するな、完璧超人だろうが」
「ネメシスと戦った時はまさかのモンゴルマンになるし…俺は変わっていく様を100回は余裕で再生した。モンゴルマンもいいんだ…俺だってネメシスみたいに猫じゃらしされたいんだ…モンゴルマンのフライングレッグラリアートは俺にとってはご褒美すぎる。だがな、これだけは言っておく。ヘッドギアを付けた昇龍胴着姿も好きなんだ!」
「わかったわかった」
「キュワ、話が逸れた。そうそう、その後ラーメンマンは俺のことを姫抱きで運んでくれたんだな」
「そうだったな」
「キュワァ…なんて慈悲深い…その瞬間を生きてるうちに見たかった…いや、よく考えたら生きているうちにされても尊過ぎて死ぬから、どっちにしろ結果は一緒か」
「(何だこいつ)…そう言えば疑問なんだが」
「なんだ?」
「それは本人に言わないのか?」
少しの沈黙。そして次の瞬間、ネメシスは素早い動きで肩を掴まれる。あまりの速度に反応できなかった。そしてその動きを試合でもしてくれと思った。
「言えるわけないだろう!?ネメシスよ!俺がラーメンマンから嫌われたらどうするんだ!責任取れるのか!おい!」
「ぐぁ!揺らすな!だ、だが、言ってみないことには、」
「こんな気持ち悪い感情を伝えてみろ!確実に引かれるだろうが!!」
「気持ち悪いという自覚はあるのか」
「当たり前だ!そうじゃなかったらわざわざお前を経由してキン肉マンからラーメンマンのブロマイドを買い取るわけないだろ!!」
マーベラスは手を離す。そのまま悔しそうに拳を握る。
「本当は俺だって物販コーナーでラーメンマンのグッズを吟味したいんだ!しかしもっとグッズがあってもいいような。テリーマンやキン肉マン、ロビンマスクはあんなにあるのに…あまりそういうのは好まないのかもしれんな。ファンクラブ会員限定で何か作るか。…話は戻るが、完璧超人として顔が知られてる俺が言ったら話題になる。そうなるとすぐにラーメンマンに話がいく。最終的に引かれる。俺が終わる」
「そんなに落ち込むな。俺が悪かった」
今日は正義超人と完璧超人による合同練習試合の日だった。練習と言っても内容は本番さながら。負けたら自害という掟こそないものの、真剣勝負には違いなかった。
そして今、ラーメンマンは練習試合でダルメシマンと戦っている。
リングの周りで皆が戦いを観戦している中、ネメシスとマーベラスは少し外れたところに位置取っていた。
生でラーメンマンの活躍を観れるとあって、マーベラスはさぞ嬉しそうかと思いきや、その表情は真剣そのものだった。だがよくよく見てみる。
「生でラーメンマンが見れるなんて格好良過ぎて直視できん。おい今の足捌き凄くないか。無駄が無さ過ぎて全く参考にならん。あれはラーメンマンにしかできん。ダルメシマンを挑発する顔好。あんなに楽しそうなラーメンマンが見れて俺も嬉しい。今日髪型がいつもと違う気がするんだが、ネメシスどう思う。三つ編みの具合が少しきついような気がする」
「真顔で早口なのやめんか。口を動かせ。ほぼ口が動いてないのにこの台詞量は普通に怖い。後、俺から見ると三つ編みはいつも通りにしか見えん」
「こうやって表情を引き締めてないとニヤケそうで怖いんだ。分かってくれ」
「それを分かってはいるが、怖いものは怖い」
「あの回転龍尾脚をする時の回転の仕方が美しすぎる。永遠に回ってるいられるんじゃないと思ってしまう。そこからの身体の真っ直ぐ具合は今までの超人拳法家の中でもトップクラスだ。あの姿勢が綺麗だから無駄なく力が相手に伝わって威力が凄まじい」
「技の真面目な褒め言葉が途中で入るから、俺の頭がバグる」
「回転龍尾脚のアクスタが欲しい」
「いや、いつも通りだった」
「自作すべきか」
「やめておけ」
そんなやり取りがありつつ、ラーメンマンとダルメシマンの試合は、ラーメンマンの勝利に終わった。
そうして全ての試合が終わり、それぞれの超人がクールダウンがてら雑談する中、ラーメンマンがマーベラスに話しかける。
「マーベラス、少し話せないか?」
「…ラーメンマンか、勿論だ」
マーベラスはにこやかに答える。だが隣にいたネメシスには気づいていた。その目が必死にSOSを訴えていることを。ネメシスは少し溜息を吐いた。だが助けを求めている仲間を見捨てておくことも出来なかった。
「…ラーメンマン、少し待ってくれ」
「…」
ネメシスはラーメンマンに断りを入れ、マーベラスに小声で話しかける。勿論ラーメンマンには絶対聞かれないような声量で。
「ピンチすぎる…推しから誘いが…とにかく駄目だ、もう気絶する…」
「落ち着けマーベラス。いいかよく聞け、お前は今、完璧超人だ。ラーメンマンファンクラブの会員No.00000じゃない。完璧超人のマーベラスだ。その皮を被って対応しろ、お前なら出来る」
「キュワ…そうだ…そうだった…俺は完璧超人、俺は完璧超人…」
マーベラスは己にそう言い聞かせながらラーメンマンの元へ行った。
遠くから見ている限り、スムーズに話が出来ている、ように見える。おそらく帰ってからその時の会話を一言一句聞かされる。そう思うと、少しゲンナリするが、それでもラーメンマンのことを話すマーベラスは楽しそうであり、幸せそうだった。だから、ネメシスは心の底からその時間が嫌というわけではなかった。いつかは何らかの形で収まってほしいとすら思っている。
────
その日の夜。キン肉ハウスにはキン肉マンとミートの他に、ラーメンマンがいた。
ラーメンマンはいつもの余裕のある態度とは対照的にかなり落ち込んでいて、ちゃぶ台に突っ伏していた。それをキン肉マンとミートはあれやこれやと手を尽くして慰めている。
「マーベラスに振られた…」
「だ、大丈夫じゃ、そもそも告白しておらんのじゃから、振られてはおらん!」
「そうですよ!元気出してください!」
「だが、私に対してだけ何処となく素っ気ないのが気になるんだ…」
「ううむ、だがわしらから見たら、仲良く話しておったようだが、」
「相手はきっと緊張しているんですよ!」
「何の緊張だ…私の方が緊張する…久しぶりに会うからと、気合い入れ過ぎたのがよくなかったかもしれない…そのせいで手元が狂って三つ編みの具合が違ったのが気になったのかもしれない…」
「三つ編みのことなんて気付いてないですよ!」
「しかもネメシスと仲が良さそうなのがまた気になる…」
「あ〜…それは、まあ」
「ずっと二人で隣り合っていたんだぞ…付き合っていると言われてもおかしくないぐらいには…」
「け、けど、付き合ってるかどうかはわからないですし!ラーメンマンはまだマーベラスが好きなんですよね!?なら諦めるのはまだ早いですよ!これからもアピールしていきましょう!」
「あのネメシス相手では、勝算がなさすぎる気がする…」
いつだったか、キン肉マンはネメシスがラーメンマンのブロマイドを欲しがる理由を聞いたことがある。完璧超人の中の誰かが欲しいからと言っていたが、その誰かとはもしかして、とキン肉マンとミートはおおかたの予想はついていた。何故なら完璧超人の中でラーメンマンと直接関わった人物は二人しかいない。その為ネメシスに対してはラーメンマンが心配しているようなことはないとキン肉マンとミートは断言できる。だがそもそもブロマイドの事自体ネメシスから固く口止めされている為、ラーメンマン本人に言うわけにはいかず、今はとにかくラーメンマンを慰めるしかなかった。
〜次回予告〜
「マーベラス、今度一緒にご飯でも行かないか、二人で」
「キュワ……ネ、」
「ね?」
「ネメシス!!!」
ラーメンマンはマーベラスをご飯に誘ったが、思い切りネメシスと叫ばれてしまった。それを聞いたラーメンマンはかなり不機嫌になる。
「いつもネメシスといるが、付き合っているのか?」
即座にそんなわけがないと否定するが、ならばどんな関係なんだと聞かれ、マーベラスは答えに困窮することに。
次回、
「マーベラスピンチ!どうなるマーベラス!頑張れマーベラス!」