水木が消えた話ある日唐突に水木が消えた。
何かの比喩ではなく、文字通り消えてしまった。
朝の事だ。出勤したら普段は誰よりも早く来て仕事を始めている水木の姿はなく、こんなに遅いとは珍しいとそんなことを思いながらいつも通りに過ごしていた。
だが、水木は始業時間を過ぎても来なかった。どうしたことかと思っていると、見知らぬ男が慌てるように室内に入ってきて俺に挨拶をしながら水木の席に腰かけていそいそと仕事の準備を始めたではないか。
もしかしたら部屋を間違えている新人かもしれないと思い、声をかけてみると隣席の男はキョトンとした顔をして、それから大声で笑った。そしてこうも言う。
元から僕の席はここですよ、と――
思わず耳を疑った。つい先日まで水木が座っていた席にも拘わらずここは自分の席だと宣う男は一体何なのだと思った。ふざけるのも大概にしてほしい。そんな言葉が口から出かかるが目の前の男かが嘘をついているようには見えず、それどころかそう言われてみればそんな気がしてしてきている自分がいて、どうにかなりそうだ。
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