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    キッド夢男主短編。紺青映画後を想定。描写はキスまでですがそれ以上の接触の匂わせがあります。デフォ名で慎二(一箇所名前を呼ぶ箇所あり)

    キッド夢短編『臆病な僕らの胸のうち』「しかし、派手にやったなぁ……」

     そうボヤきながら、俺はキッドの左肩の傷に遠慮なく消毒液を吹きかけていく。いってぇ、とキッドが大袈裟に呻いた。

    「ちょっとおい、もうちょっと優しくしてくれよ!」
    「それがアポなしで真夜中に窓からやってきた奴の言うことか? 不法侵入で通報してやってもいいんだぜ」

     そう、あろうことかこいつは俺の家に忍び込んだだけでなく、自室ですやすや眠っている俺を叩き起こして「怪我の治療をしろ」と命令してきたのだ。なんなんだいきなり、なんなんだこいつなんなんだ。流石は俺の親愛なる従兄弟様と顔がグリソツなだけはある、人を顎で使う傍若無人さもソックリだ。俺の安眠を返せ。

     む、と口を尖らせたキッドは、「だってよぉ」と俺に向き直った。

    「オメー以外に頼れる奴がいねーんだもん。お前医者だろ」
    「医学部生を医者とカウントしてんじゃねーよ」

     俺はただの大学生だぞ? そりゃ父親は開業医で、自宅も病院と隣接してるけどさぁ。でも俺は次男なので、ゆくゆく兄貴が病院を継いだ暁には多分追い出されることになると思う。兄貴と仲悪いしな。
     ……それでも、まともな医者に行けないというキッドの言葉も理解はできる。背中の火傷は感電の形跡があったし、左肩の傷は……掠っただけで貫通はしていないようだけど、この傷跡はひょっとして銃槍か? ともかく、そこらの病院に駆け込めば最後、キッドはめでたくお縄となるだろう。少なくとも事情聴取は避けらんねぇな。

     そう。家に不法侵入してきた挙句、俺の安眠を妨害したこいつは、なんだかんだで世間を騒がすあの『怪盗キッド』だったりする。予告状を出す演出っぷり、厳重な警備の中でも鮮やかに獲物を奪う華麗さ、そしてキザったらしい言動から、こいつのファンも数多い(らしい)。
     そんな怪盗キッドとただの大学生である俺との接点がどこにあったかというと、そりゃなんというか、元高校生探偵で今は元気に小学校一年生やってる、我が親愛なる従兄弟様のせいだったりもする。

     従兄弟様とこの怪盗は、何故だか知人以上友人未満という奇妙な関係を結んでいるらしく、度々協力と敵対を繰り返している。なんだかんだで従兄弟様はこの怪盗に命を救われることも多くって(従兄弟様にそんなこと言うと「オレだってアイツの命救ってっからな! おあいこだろ!」とムキになるのだが、そもそも命は一個しかないので大切にしてほしい。まぁ、たまにあの従兄弟様は不死身かと呆れるくらい瀕死からの生還を繰り返しているのだが)、そんな恩もあり、俺もキッドは無下にはできない。少なくとも、夜中に叩き起こされても面倒見てしまうくらいには。

     改めて傷を診る。怪我を負った直後に自分で応急措置はしたようで、傷口自体はふさがっている。ひとりでやったのかな、器用なやつ。これからきちんと処置をすれば、傷跡も目立たなくなるだろう。
     傷の手当てをしながら、キッドに尋ねた。

    「そーいやお前、一体何しにシンガポールまで俺の従兄弟様連れてったんだよ。割とびっくりしたんだぞ」
    「ふふん。その話をすると一時間じゃ足りねぇなぁ。せめて長編映画一本分の尺と壮大さが欲しいくらいだ」
    「ハイハイ、お前らのことだから、そんな映画があったら興行収入も百億行くんじゃねーの」
    「……テメー、さてはオレの話聞く気ねーな?」
    「あるある、心の底から大アリだって。ただこの時間から映画一本分の冒険話を聞く元気ねぇよってだけ」

     今何時だと思ってんだ。明日も学校とバイトがあるんだぞ。俺は今すぐぬくぬくの布団に入りたいんだよ。大冒険はそりゃ気になるが、あとで我が従兄弟様がたっぷりと語ってくれるだろう。
     ……そもそも、我が従兄弟様とキッドが一緒にいて、大冒険にならないはずないだろ。加えて蘭ちゃんと園子ちゃんに、京極くんまでいたらしいし。京極くんがいたら、なんつーかもうミステリーというよりアクションだよな……この映画、MX4Dとかになったらめちゃくちゃ楽しそうだな……アトラクション感やべぇ……。

    「でも、まぁ……無事に帰ってきてくれて、良かったよ」

     治療がひととおり済んで、キッドの背中に手を当てる。手のひらから伝わる確かな心臓の鼓動に、思わず息を吐いていた。
     我が従兄弟様も、こいつも、いつだって無茶をする。みんなを守るために、為すべきことを為すために、自分の危険なんて省みずに、自ら事件に飛び込んでいく。

     命は誰にも平等に、ひとつずつしかないというのに。
     死んでからでは、遅いのだ。

     キッドは、少しむずがゆそうに肩を動かしたあと、茶化すように「……何だよ、心配してくれてんのか?」と笑った。
     だから俺は、大真面目に頷く。

    「あぁ。心配してる」
    「…………」
    「お前や従兄弟が傷付いて、死にそうになってる時にさ。俺は家のテレビでくっだんねぇバラエティ見て笑ってんだぜ。つまんねぇ映画見て泣いてんだぜ。……今はこうして、笑い話で聞いたからいいけどさ。もしその時、その時間に、お前らが命を落としていたら、なんて思うと……胸が塞がる気持ちになる」

     どれだけ頭が良かろうと、天の神様に愛されているほど運が良かろうと。
     命運が尽きてからでは、遅いのだ。

    「…………」

     キッドは真面目な顔をして俺に向き直った。俺の頬に手を当て、甘えるように顔を近付けてくる。微かに鼻先が触れ合ったのを皮切りに、どちらともなく唇を合わせた。

    「……なんで?」
    「……うるせー口だな、塞いでやろうかと思っ……て……」

     至近距離で目を合わせる。キッドは顔を赤らめ目を逸らした。キザな言動が多い割に、態度は割とウブなのだ。
     ……ハハ。ま、コイツのこんな顔が見れたんだから、いっか。今回の怪我は不問としてやるさ。

     今度は明確に俺の側から、そっと軽いキスを落とした。唇離すとキッドの胸あたりを押し、平時の距離感に戻す。
     キッドは何処か神妙な顔をして正座した。

    「……その。いつも助かって……ます……今日も、なんつーか、ありがとな」
    「おー。次はドジ踏まねぇようにな」

     我が従兄弟様と同じ顔で謝られると、ちょっと愉快な気分になるな。こっちの方が幾分素直なもんだから、なんだか可愛く思えちゃうよ。
     くぁぁと欠伸をこぼした瞬間、何故かキッドに押し倒された。切羽詰まった表情を浮かべているものの、残念ながら怪我人病人に手を出す趣味はないのだ。

    「悪いけど、患者と致す気はないから」
    「……未成年には手を出したクセに」
    「未成年て……俺、お前の歳知らないんだけど、お前ホントは何歳なワケ?」

     キッドはぷいとそっぽを向いた。答える気はないってか。
     うーん、未成年かどうかはイマイチ分からないものの、あの従兄弟様と似たり寄ったりの歳頃ではあるのかもしれない。顔に引き摺られ過ぎてるか? ……つーか従兄弟様と同じくらいなら、どっちにせよ未成年ではあるのか。はー、やだねぇ。あんまり考えたくないな。
     キッドの額を突いて身を引かせる。ベッドへと歩み寄り、布団に潜り込みながら振り返った。

    「添い寝くらいはしてやるよ。ほら、来るの、来ないの?」

     入った布団の端をひらひらと振る。
     キッドは少し拗ねた顔をしていたものの「……行く」とおとなしく布団の中に潜り込んできた。背を向けた俺を抱え込み、頭を俺の背中に擦り寄せてくる。
     ……あー。こういうところ、凄く可愛い。でろでろに甘やかしたくなっちゃう。でも、我慢だ。
     小さく息を吐いたキッドは、ギリギリ聞こえる囁き声で呟いた。

    「……好きだよ、慎二」
    「……おぅ」

     ずっと居てと言えない関係。
     ベッドの中でしか愛を囁けない関係。
     本来ならば繋がるはずのない縁が、たまたま今繋がってしまって。成り行きの情と行きずりの熱が、このか細い縁を留めている。

     たとえ、望めばすぐに解ける縁でも。
     簡単には解きたくないなと、今は思う。

    (fin.)
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