大ボスは、自らの腹を撫でながら葉巻を咥えた。彼にとって葉巻は、唯一と言っていい贅沢だ。着るものも住むところも頓着はない。若い女を侍らせることにもいい酒にも、なんなら宝石にも興味はない。興味があるのは金だけだ。
金を稼ぎ、貯める。
かつては貧しい青年期を過ごした男は、金があれば安心したし、金さえあれば何ものにでもなれると思って生きてきた。
首から提げた大きな翡翠はそれだけでも一廉の財産ではあるが、それは、自分で買ったものではない。男を拾ってくれたかつての頭目が身に付けていたもので、死の床で、それを男に譲った、ということになっている。
龍頭棍はその時同時には回ってこなかった。十何年かをじっと待って、やっと順番が回ってきた時にはもうそれなりの年齢で、周囲はいつ引退するのかと囁きあった。
そんなことするものか。
口うるさい連中は、一人二人と減っていった。
組織の規模のわりに若い連中ばかりなのは、みんな去ったからだ。組織から。或いは、この世から。
男が必要としたのは、意見し支える仲間などではなく、自分のために働く蟻や蜂のような存在だけだった。己で何か考えるような頭のある奴はいらない。ただ従うだけのもの。失ったら困るような手足ですらない、取り換えの効く部品。
それでも、いつかの自分のような目をした少年を拾った時、その時だけは、何かいつもと違うものを感じた。
気をつけなければならない。
この少年は、いつか自分の跡を襲うだろう。
龍頭棍を手に入れ、翡翠を奪い、そして――ああ、同じにはさせない。そんなことはさせない。
そんなことをしても、本当に欲したものは何一つ得られないことを、男は知っているからだ。
本当に欲したものが何だったのか、そんなことすらもう忘れたけれど。