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    honeybee_3

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    honeybee_3

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    大ボスの話。

     大ボスは、自らの腹を撫でながら葉巻を咥えた。彼にとって葉巻は、唯一と言っていい贅沢だ。着るものも住むところも頓着はない。若い女を侍らせることにもいい酒にも、なんなら宝石にも興味はない。興味があるのは金だけだ。
     金を稼ぎ、貯める。
     かつては貧しい青年期を過ごした男は、金があれば安心したし、金さえあれば何ものにでもなれると思って生きてきた。
     首から提げた大きな翡翠はそれだけでも一廉の財産ではあるが、それは、自分で買ったものではない。男を拾ってくれたかつての頭目が身に付けていたもので、死の床で、それを男に譲った、ということになっている。
     龍頭棍はその時同時には回ってこなかった。十何年かをじっと待って、やっと順番が回ってきた時にはもうそれなりの年齢で、周囲はいつ引退するのかと囁きあった。
     そんなことするものか。
     口うるさい連中は、一人二人と減っていった。
     組織の規模のわりに若い連中ばかりなのは、みんな去ったからだ。組織から。或いは、この世から。
     男が必要としたのは、意見し支える仲間などではなく、自分のために働く蟻や蜂のような存在だけだった。己で何か考えるような頭のある奴はいらない。ただ従うだけのもの。失ったら困るような手足ですらない、取り換えの効く部品。
     それでも、いつかの自分のような目をした少年を拾った時、その時だけは、何かいつもと違うものを感じた。
     気をつけなければならない。
     この少年は、いつか自分の跡を襲うだろう。
     龍頭棍を手に入れ、翡翠を奪い、そして――ああ、同じにはさせない。そんなことはさせない。
     そんなことをしても、本当に欲したものは何一つ得られないことを、男は知っているからだ。
     本当に欲したものが何だったのか、そんなことすらもう忘れたけれど。
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