少年に、日本式の「ドス」と呼ばれるその大小の刃物を与えたのはTigerだった。
「今日からこれをお前の得物にしろ」
使いこなせるようになったら、お前を俺の懐刀にしてやる。
少年は真剣な眼差しでそれを受け取った。
刃物も、言葉も。
十二と呼ばれた少年は、組織の中の同じ刃物使いに扱いを習いはじめ、やがて日本の映画などを見て真似をするようになった。あんなのは観客に見せるための外連で無駄な動きも多いし、敵がこちらの都合に合わせて待ってくれるようなこともない。
そんなことはさすがに十二も理解したようだが、それでも「座頭市の殺陣はスゴい」などと言いながら、やがて長ドスをも軽々と使いこなすようになった。
あれは集中力が高い。何か夢中になれるものを与えれば、薬に耽溺することはなくなる。
そう助言したのは龍捲風だ。
十二が中毒から立ち直るまでの面倒を見、その後の生かし方まで示唆してくれた。
「子供だって何か役割が欲しいんだ。与えてやれ」
信一という少年を預かり育て始めた龍捲風の言葉には説得力があった。
本当は役割などなくても、ここにいてよいのだという安心感を与えるのが一番であるが、親でもない龍捲風やTigerには、与え得る無償の愛を、相手に信じさせることは難しかった。
ただ、必要とされればある程度は満たされるという経験から、同じように少年を導くことしかできなかった。
十二は自分の腕そのものであるかのように刃を使うようになった。ただ相手を斬るだけではない。それを使って相手に脅威を与える一方で、Tigerの意をきちんと汲んで交渉もする。
Tigerが言い出すまでもなく、懐刀が十二の代名詞となり、やがて傍にいるのが当たり前になった。