或いは、龍と少年のアンチテーゼ 人と言う生き物に嫌気がさしたのは、もう何百、何千回目なのか、とうに忘れてしまった。
ヌヴィレットは長い手足を投げ出し、ゆらゆらと水の流れに身を任せつつ、満天の星空をぼんやりと眺めていた。あの夜空へ浮かぶ星々の数と、人の醜悪さへ触れた回数は、どちらが多いだろうか。そんな事を考えていたのだが、馬鹿馬鹿しくなってきたので、止めた。
「……いっそこのまま、海へ還るのも悪くないか?」
つい、そんな浅はかな考えが脳裏を過る。本気でそう考えている訳ではない。だが、今現在は冗談だとも言い切れない。人の姿でフォンテーヌへやって来てからの五百年近い年月で、少々精神が摩耗してしまっているのだろう。
いまはもう、何も考えたくない。そう静かに目蓋を閉じ、心地良い水の感覚へ体を委ねる。冷たくて、あたたかくて、心地良い。優しく体を包み込んでくれる、その感覚へ。
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