幸せなキスをして終了するやつ君のことが、本当は大嫌いなんだよ
目の前の大切な家族が発した言葉を聞いて王次郎が脳裏に浮かんだのは当然、という単語だった。
拠点で二人揃って朝食を食していた時間だった。王次郎はもそもそとパンを咀嚼していた。今日は食パンにジャムを塗って。苺の甘酸っぱさが口の中で彩られ楽しい。正面に座るカズキは新聞や端末を開き何も食べずにコーヒーを腹に流し込む。少しは食べろと言ってみるが良い返事を貰えた覚えがない。そんな、日常だった筈なのに。
「あのね、王次郎」
今日はいい天気だねと世間話でも始まりそうな声色で王次郎を突き刺す容赦ない言葉。
「あぁ、そうだな……」
あんなことをしてしまった当然の報いだろう。言葉にはしなくともこの家族には伝わる。彼は王次郎のことならなんでも理解してくれるし、王次郎自身もカズキのことをトラッシュメンバーよりも、あのミナトよりも理解しているだろうという自負があった。自惚れ、だったのだろうかと表情を暗くした。目の前にいるはずなのに彼の表情が見えない。
「僕は君を許すことが出来ないんだよ」
王次郎が使っていたスプーンを握りしめ的確に目を狙い突き刺そうとする。動きを捉えているが沈鬱が勝ってしまった為に何もせずに見つめるだけで。
そこで目が覚めた。汗が頬を伝う。焦りからあれは本当に夢だったのか、カズキがそう思っていないとは言い切れない。ベッドで静かに膝を抱える。
「あの、カズキさん……それはなんでしょう」
つる子はフラクタルヴァイスに突入する前の確認のためにカズキの元を訪れた。用事はすぐ済んだしカズキ自身に何も変わりはない。しかしカズキの体躯を覆い隠す様にQが後ろから抱き着いており、つる子たちトラッシュのメンバーからすれば違和感しかないその光景もカズキは平然と受け入れている。
「あぁ、これ?夢見が悪かったみたいでさ。起きてからずっとこうなんだよね」
「えぇ……それで受け入れていいのでしょうか」
「まぁ実害は無いし良いんじゃない?」
それで本当に良いのだろうか。疑問に思っても当人が嫌ではないのならこれ以上は追及しない方が良いのだろう……きっと、多分。そう結論付ける。このまま居座るのも居心地が悪いとつる子は足早に退散する。
「で、どんな夢だったの」
「……」
「言わないの?」
大きい猫を相手している気分になったカズキは目の前の柔らかそうな髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜるように撫でる。意外と硬いんだよなぁと撫でる手は止めないでぼんやりと考える。何が原因なんだろう。夢見が悪いとは言っていたがもしかしたら鳳のことかもしれない。死んでなお苦しみを与えてくるのかと憎らしくて唇を噛めば痛みと同時に唾液以外が漏れる感覚。
「カズキ、やめるんだ」
抱き着いてカズキの身体に触れていただけの左手が顎に添えられ王次郎の方を向く。見慣れているとは言えここまで近いと流石のカズキも羞恥が募る。じっと顔を見つめていればくるりと身体を反転させられるも顎に添えられた手はそのまま二人の距離を近付ける。
「例えカズキと言えど傷を付けることはさせない」
触れそうなほど近付けばどこか居心地が悪く、目を逸らそうとするが真剣な瞳がじっとカズキを見つめると目を逸らすことが出来ない。
「大袈裟じゃない?」
「大袈裟ではない」
えー本当に、お前が無頓着なだけだ。軽く言い合いをしていれば顎を掴んでいる手がむにむにとカズキの頬で遊ぶ。他愛のない話だが心地良い。ぽつりとカズキが零す。
「大丈夫だよ王次郎。僕は君のことを恨んだりしてないからね」
「気付いていたのか……」
「王次郎のことは何でもわかるからね」
昔と同じ顔で笑っている。その笑顔を見ていたら夢なんてどうでもよくなってしまう。愛しさからキスを送る。触れるだけでも十分暖かさを伝えられたようで、カズキの頬は赤く染まる。
「もう、いきなりは驚くんだけど」
「……ならば」
そしてもう一度唇を合わせた