幸あれチヨダから始まった二人きりの旅。一緒のチームでXBしたいと語り合った矢先に始まった統治ルールに対抗するための仲間探しをしている最中。突然の雨に降られ追い立てられるようにホテルの部屋に篭る。身体を冷やしては風邪をひくからと足早に浴室に消えたカズキを、Q——いや、王次郎は想う。自らの過ちを人生を賭けて救って贖罪を提案し、今もなお隣を歩いてくれることが何よりも愛おしい。何よりも大切で守りたい存在だと王次郎ははっきりと理解している。そんなカズキの誕生日まであと1時間も無い。何かをしなければという気持ちと何をすればいいのだろうと考えがまとまらず両手で頭を抱える。今日こそは感謝と愛を。そう思っていてもどう伝えれば分からない。
「王次郎、どうしたの?」
風呂上がりで上気した肌を晒してバスローブ姿の油断した姿のカズキがいつの間にかQが腰掛けているベッドの隣に座る。ツインなのだから当然なのだがその距離に少しだけ緊張を覚えてしまう。首を傾げて王次郎の様子を見る姿に警戒心など微塵も無くて王次郎が何を想っているのか知らないのだろうと少し複雑な感情を抱かざるを得ない。
「カズキ」
「ん、王次郎?」
ゆらりと立ち上がって腰掛けているカズキの目の前に立ってゆっくりと抱き締めながら押し倒す。わっ、えっ、困惑の言葉を無視して抱き締め続ければ背中に暖かくてしっとりとした手が回る。
「今日はそういう日?仕方ないね」
甘えさせてくれるように背中がぽんぽんと優しくあやすように叩かれれば、安堵から深く息が漏れる。
しばらくじっと抱き締めていたが、それから時計の音が響けば今の時間が気になってしまう。がばりと起き上がりきょろきょろとベッドサイドの時計を見て0が並んではいるが一番右が3を指しているのを見て少し落ち込む。
「……本当に今日はどうしたの王次郎」
「カズキ……」
「なに?」
「誕生日、おめでとう」
「……あぁ、ありがとう」
きょとんと眼を瞬いた後に少し目を瞑ってあぁと思い出しした様子。自分のことに興味がないのだと思えばやはり王次郎が毎年祝うことが必要なのだろう。
「カズキ、私はこれからもカズキと共にいたい」
「僕も同じ気持ちだよ」
「違う」
「えっ?」
不思議そうなカズキが無抵抗なのを良いことに顔を近付け唇を合わせる。冷静だった表情が一気に波紋が広がるように赤く染まる。茹でられた顔が戸惑いを見せているがそれでも抵抗はされない。それどころか王次郎に選んでくれた服をぎゅうと握り締め恥ずかしそうに目を伏せる。
「カズキ、愛している」
「僕も、ずっと愛していたよ王次——」
言葉は最後まで紡がれず合わせた唇にそっと消える。それ以上の言葉は要らない。心を繋げればそれで足りるから。明日は指輪を買いに行こう。浮かれた気持ちのまま決意を固める。