賀玄の話————
極夜
長く生きていると必然的に過去が長くなる。
思い出が増えるとその分思い出すことも多くなる。
あまりに長い人生の中で、気が遠くなるような時間の中で生きる者たちは、新鮮な感情を保ち続けることができるのだろうか?
血が錆びて黒くなるように、そのとき生まれた思いや、忘れたくない感情や、欲情、それらを色褪せることなく心の内側に保ち続け、火を灯し続けられる人間は一体この世にどれだけ存在するだろう。
————
夜の帳がおりて、辺りは暗くなっていた。
ある食堂はほんの少し前に店閉まいをしたばかりで、建物の中にはまだ明かりと人影が見えた。
「何度も休んでって言ったのに。もう店も閉めたし戻って休んでて。後は全部やるから」
3190