スラムの朝 三人の子供たちが暮らす崩れかけた小屋の隙間から、朝の光が差し込んでいた。
ガラドは目を覚ました瞬間、手のひらに鈍い痛みを感じた。昨夜、逃げる途中で転んだせいだ。見れば、薄汚れた布が簡単に巻かれている。
(……そっか。スーリャが手当てしてくれたんだっけ)
彼女の細い指が、昨夜器用に布を結んでくれたのをぼんやりと思い出す。
「おーい、起きろー!」
ダンの元気な声が響いた。彼はすでに立ち上がり、狭い小屋の中を動き回っている。
「朝だぞ、朝! ほらガラド、スーリャ! さっさと起きねえとまた誰かにゴミ漁りの先を越されるぞ!」
「……うるっせぇ~」
ガラドは頭をかきながら体を起こした。
「ったく、朝から元気すぎだろ」
「そりゃな! 今日は祭りの準備が始まる日だぞ!」
「祭り?」
スーリャが目をこすりながら、ゆっくりと身を起こす。
「おう、近くの広場でやるんだってさ。馬車の荷物とか増えてるし人も多くなるだろ?」
ダンは得意げに胸を張った。
「つまり、そこら中に金が落ちるってことだ!」
「なるほどねぇ」
ガラドはニヤリと笑った。
「ったく、お前のそういう頭の回るとこ見習いてぇもんだぜ」
「でしょ?」
ダンは得意げに笑ったが、スーリャは小さくため息をついた。
「でも、無理はしないでね」
彼女は静かに言う。
「ダンはいつも、私たちのために危ないことばかりするんだから」
「大丈夫だって。俺は天才だからな!」
そう言ってダンはガラドの手を引っ張った。
「お前もほら、昨日転んだとこ、まだ痛いんだろ? 無理すんなよ」
「手当てしてくれたの、お前じゃねえだろ」
「うっ……まあ、俺は見てるだけだったけど……」
「な、スーリャ」
ガラドは隣の少女に視線を向けた。
「ちゃんと結んどいたから、しばらくは大丈夫なはずだよ。でも、ちゃんと綺麗な布があれば替えたいな……」
スーリャはガラドの手をそっと撫でた。
「そのためには、稼がねえとな!」
ダンが勢いよく立ち上がる。
「よーし、今日もバッチリ金持ちの財布を狙うぞ!」
「おう!」
ガラドも拳を突き上げ、元気よく返事を返した。
スーリャが小さく咳をすると、二人は自然と彼女に寄り添うように歩き出す。
三人は今日も、スラムから離れた世界へ足を踏み出すのだった。