スラムの片隅で夕暮れの赤い光が、スラムから少し離れた通りを照らしている。ここはまだ「まともな人間」が歩く場所だ。だが、その足元に転がる小さな影は、スラムの子供たち。彼らはこの世界の隙間を巧みにすり抜け、生き抜いていた。
ガラドは路地裏の壁に背をつけ、通りを歩く男をじっと見ていた。身なりはよく、腰回りが少しだぶついている。あのポケットには金が入ってる。そう直感で分かった。
「ダン、いけ」
ガラドが低く囁くと、ダンはニヤリと笑い、軽い足取りで男に近づいた。
「すみませーん、おじさん!」
無邪気な声を作り、男の袖を引く。その瞬間、男が注意を向けたのを確認すると、ガラドは影のように動いた。男のコートの隙間に手を滑り込ませ、ポケットから硬貨の詰まった小袋を抜き取る。指先に感じるほどよい重み――成功だ。
「いや、なんでもないや!」
ダンがとぼけたように笑って駆け出し、男が呆れたように手を振る。その間にガラドはするりと横道へと消え、スーリャの待つ場所へ向かった。
スーリャは細い腕で拾った布を肩にかけ、ゴミ箱の陰にしゃがみこんでいる。彼女の手元には、さっき漁った戦利品が並んでいた。
「おっ、今日の成果は?」
ガラドが小袋を見せびらかすと、スーリャの顔がぱっと明るくなる。
「わあ、いっぱい入ってる! ダン、ガラド、すごい!」
「へへっ、まあな!」
ダンが得意げに胸を張る。
「そっちはどうだった?」
ガラドがスーリャの隣にしゃがみこむ。
「パンのかけらと、リンゴが一つ。あとは……これ」
スーリャは包み紙にくるまれた骨付きの肉を差し出した。誰かが捨てたものだろうが、腐ってはいない。十分食える。
「おいおい、豪華じゃねえか!」
ダンが目を輝かせる。
「今日の晩飯はごちそうだな!」
ガラドも笑う。スラムに生まれたからには、明日生きている保証なんてない。けれど、こうして今日を乗り越えられたのなら、それでいい。
「食おうぜ」
三人は肩を寄せ合い、夕暮れの光の下で手に入れた食事を頬張った。
スーリャはリンゴをかじりながら笑い、ダンはパンを口に押し込みながら冗談を言い、ガラドはそれを聞いて肩を揺らした。
この瞬間だけは、世界のすべてが彼らのものだった。