Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    sushisushi_q

    @sushisushi_q

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🎬 🍣 💗 💙
    POIPOI 27

    sushisushi_q

    ☆quiet follow

    子供チヒ伯♀(平和軸現パロ、伯♀がバレエやってる)

    妖精妖精(チヒロ視点)

    初めて彼女を見た時、妖精だと思った。

    10歳の時の俺はバレエについてよく知らなかった。
    刀匠だが他のものを作る事がある父さんは、あの頃は委託で何本か包丁を作っていた。
    毎週木曜日夕方、学校帰りの俺を連れて車でクライアントの元へ打ち合わせに行く。
    父さん達が打ち合わせをしてる間、俺は近くの市立図書館で本を読んだり宿題をしたりして時間を潰していた。
    打ち合わせ場所が高級住宅街付近だからか、市立図書館なのに設備は豪華で俺は全く退屈しなかった。
    図書館に隣接している公園も魅力的だったが、その時は2月で寒い日が多く、俺はほとんど図書館で過ごしていた。

    図書館の窓から妖精が見えた。

    図書館の向かいにバレエ教室があった。窓はガラス張りで小学生の生徒達がレッスンを受けている様子が見える。
    ハクリもそこの生徒だった。
    髪も肌も白くて身体のラインが誰よりも細い。目は群青の石のような青で大きく、鼻は小さくて上向き、小さいけど花びらのような唇。
    俺はハクリを初めて見た時、幼児だった俺を父さんが寝かしつける時に読み聞かせてくれた絵本の妖精を思い出した。
    絵本の話は覚えていないけど、イラストの妖精はとても小さくて白い。花畑で小さな身体を動かして踊っていたのが印象的だった。

    妖精はいつも楽しそうに踊っていた。
    よくバレエの先生に何か言われてそうな場面を見かけたが、図書館からでは何を言っているのか分からなかった。
    その後のハクリは少し難しそうな顔をしていたが、すぐにまた楽しそうに踊っていた。

    俺は気づけば妖精を目で追っていた。
    他の生徒と違い、ハクリが踊っていると周り彼女とその周りが輝いて見える。
    当時の俺にはそう見えたので、益々ハクリは妖精なんだと思っていた。

    父さんの打ち合わせが終わるのは17時、俺は図書館の前に停まった父さんの車に乗ってバレエ教室を見る。バレエ教室も17時で終わるのか、生徒たちが出てくる。その中にハクリがいないか探すのが当時の俺のルーティンだったが、いつもハクリは居なかった。

    その日は珍しく父さんの打ち合わせが長引いた。俺は図書館の中で相変わらず妖精を見ていた。
    17時、俺は初めて図書館からバレエ教室から出ていく生徒たちを見た。ハクリはいない。
    17時30分、ハクリが教室から出てきた。通りでいつも見れない訳だ。

    教室から出てきたハクリは水色の薄い中綿ジャケットを着ていたが、その下は練習着のままだった。ジャケットの襟から除く首が痛々しさを感じるほど寒そうだった。
    その日は雪が降りそうなくらい気温が低くて、俺も登校する時に父さんから赤いマフラーを巻かれた。

    バレエ教室の前でハクリはウロウロしてる。
    大人しくするのが苦手なのかもしれない。
    時折手を息で温めて首に当てていた。心なしか不安そうに見える。そしてとても寒そうだった。

    俺は思わず自分の赤いマフラーを持って図書館の外に出た。もちろん上着は着た。
    ハクリの所まで駆け足で向かう。

    「これ、」
    ハクリに赤いマフラーを渡した。
    「え?」
    ハクリは声も妖精みたいに(恐らく)可愛くて、そして並んだ時俺より身長が高かった。

    俺は想像より背が高かったハクリに驚きつつも言葉を続けた
    「寒そうだから、」
    「君は寒くないの?」
    「…平気」
    ハクリは少し迷っていたが、余程寒かったのかマフラーを巻いてくれた。
    「ありがとう!今日寒くて死んじゃうかと思ったから、助かった!」
    「死んだらダメだ」
    「おかげで死ななくて済んだよ〜
    いつもね、父さんが車で迎えに来てくれるんだけど、今日はなんか遅いみたい…」
    「大丈夫?」
    「マフラーあるからヘーキ!
    あっ、マフラーいつ返したらいい?」
    一度話してみるとハクリはおしゃべりだった。
    「毎週木曜日父さんの仕事でここに来るんだ、だから」
    「来週の木曜日ね、おっけ〜!」
    「俺漣伯理!君は?」
    「六平千鉱…」
    「チヒロね、覚えた!ハクリって呼んでくれ!」
    「ハクリ…」
    ハクリは表情をクルクル変えながら俺に話しかけてくる。なんだか見た目とギャップがあって可愛らしい。
    「チヒロの父さんの仕事って何?」
    「刀打ってるんだ、今は包丁だけど…」
    「刀!?」
    ハクリの大きな目がますます大きくなる
    「刀って…侍が持ってるヤツ!?チヒロも刀握ったことあるの?」
    「うん
    あと父さんの知り合いから剣道習ってる」
    「侍だァ〜」
    ハクリは目をキラキラさせて俺を見た。
    俺は少し恥ずかしくなった。
    「刀持って剣道やってるの?」
    「いや剣道は竹刀…まだ全然だよ」
    「すげぇ…侍って本当に侍だったんだな」
    「侍?」
    「マフラー貸してくれたろ!それに剣道も習ってて刀も握ってる…侍中の侍じゃん!」
    「ハクリの言う侍って…」
    「昔侍って言うかまきり飼ってたんだ、すげ〜かっこいい奴でさァ!」
    ついさっきまで寒そうに、不安そうにしてたハクリが生き生きと喋っている。
    内容はよく分からなかったけど多分俺のことを褒めてくれてるんだと思った。
    「ハクリ、良かったら」
    友達になって欲しい、と言おうとした所で父さんの声がした
    「チヒロ〜待たせてごめんなぁ!おっどうした!彼女か!?」
    俺とハクリから少し離れた、図書館の入口に父さんが立ってる
    「父さん!!」
    俺は一気に顔に熱が上がった。
    彼女とか、そんな、
    「ごめんハクリ、もう行かなくちゃ、また来週」
    「わかった!ありがとうチヒロ!」
    ハクリは笑顔だった。
    そこから恥ずかしくてあまり記憶が残ってない。
    帰りの車内で父さんからハクリやマフラーの事を聞かれたが、俺は答えなかった。
    その時はハクリとは急に別れてしまったが、また来週会えるからいいかと思っていた。現実は違った。
    父さんはその日で仕事の打ち合わせが終わってしまった。

    結局あの後マフラーは無くした事にしてしまった。
    早く父さんに言ってバレエ教室まで連れて行ってもらえば良かったんだろうけど、10歳の俺は恥ずかしくて言えなかった。
    父さんのツテで何作かバレエを見た。悪くなかったけれど、俺が1番好きなのはハクリが踊っている姿だった。

    中学2年生の時、一人でバレエ教室まで行った。
    木曜日の夕方、俺は図書館からずっとバレエ教室を眺めていたがハクリはもういなかった。
    妖精は消えてしまった。










    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺❤❤💖🙏☺👏❤👏👏👏👏👏👏👏👏💯
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works