此れを『戀』だと云ふのなら 弐まだ心臓が騒いでいる。
どうしても信じられなくて電車の中でスマートフォンの画面を何度も確認したけれど、その度に連絡帳に新たに追加された彼の情報を見てきゅっと目を閉じた。
どこかふわふわとした現実味のない調子で歩く。
頭が思考を放棄していても、体は憶えているらしい。
仙蔵が我に返った時には、もうマンションのドアの前だった。
オートロックを素早く解錠してエントランスドアを抜けると、ちょうど待機していたエレベーターに乗り込めた。
独特の稼働音を聞いている間も、家のドアまで半ば走って向かう間も、仙蔵の心臓は飽きることなく肋骨の間で踊り狂っている。
落ち着けと自分に言い聞かせて、深呼吸してから玄関に入った。
「ただいま」
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