彼女は可憐な花だった 彼女は可憐な花だった。いつも私のほうを向いてくれない花だった。
カノンと初めて出会った日を今も覚えている。凛とした立ち姿は、岸壁に咲く一輪の花のようだった。強い眼差し。引き結んだ唇。風に靡く長い髪。そしてその拳から放たれる強烈な衝撃。
私はその日のうちに彼女に恋をした。
そして同時に失恋を知った。彼女の視線の先にいるのは、どうしようもないクズの天才だった。
私はその天才が憎くてたまらなかった。どう見たってそのクズはカノンへ好意を持っているのに、それを本気にはせず、ただのらりくらりと傍に居続けた。修行にだって熱心ではなく、その持って生まれた才能の上に胡座をかいているような奴だった。
私は戦いにおいてカノンにも勝てず、クズにも勝てず、そして師匠にも認めてもらえなかった。
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