目の前のイーゼルに乗った一枚の絵。
かりかりと、複数の線が重なって一本の線になる。描画材の濃淡で生み出されたその絵は、不思議とどこかで見たことのある人物画だった。
「…あれー、おかしいな」
一成は、かりかりと頬を掻く。手についた汚れが、頬を黒く汚す。それでも一成は厭わずに、その手で目元を覆った。
「……モデル、決めてないんだけどなあ」
はぁとため息をついてその場に座り込む。手の隙間からもう一度絵を見ても、その人物にはどこか知っている面影がある。
「これ…スランプ的な? ははっ、それってまじまじにやばくね??」
さっぱりとした短髪と、目鼻立ちのはっきりとした所謂役者顔。
こんな容姿で思い浮かぶのは、彼しかいない。
1875