東風吹かば本丸にある通称「離れ」。
茅葺き屋根の小屋は、山姥切国広の1人部屋。
そんな場所に、今年も主の季節の句が流れてきた。
そう、それはいつも季語を間違えた便りで。
「桜の芽が出ていたぞ。」
主の言葉を一言一句違えずに。今年は、本日の近侍が朝食を伝えるのと一緒に届いた。なるほど、もうそんな時分か。
軒先に干してあった布が連れ去られそうな突風。その突風に当たれば、長めの前髪が鬱陶しく感じる。しぶとく残った枯れ葉が舞えば、ぎゅっと目をつぶる。さて、折角の便りだ。朝飯前に見に行くか。
気を入れるほどの距離でも無い。すぐに着いた。
先客の歌仙兼定が、今年もぶつぶつ文句を言っている。
「まったく、いつになったら覚えてくれるんだろうね。」
「去年も散々教えたというのに。学問の神様も匙を投げそうだ。」
そろそろ気の毒にも思えてきた文句を聞き流し。
芽吹いた樹に目をやる。
陽気に誘われ丸々と膨らんだ芽は、少しずつ花開く。
辺りは清々しい梅の香りに包まれていた。