名前はまだない 目を見たら分かる、と言われた。その時の柔らかい声音が、先ほどからウルフウッドの思考の中をふわふわと漂っていた。
目の前の焚き火がパチパチと小気味よい音を立ててはぜている。ちらりと横を見れば、赤いコートの男が薪をくべている所だった。焚き火に照らされたその顔を盗み見る。薄いオレンジのサングラスの下、焚き火を映した瞳がちらちらと光っていた。
瞳の色は青だろうか、とウルフウッドは思い、いや緑か、と思い直す。どちらともつかない色だった。暗がりではよく分からない。焚き火に合わせて揺れるそれは、たっぷりと入った水を彷彿とさせた。
――わからんな。
そう思いながら、ウルフウッドはぱちりと瞬く。目を見ればわかる、と男は言った。しかし、ウルフウッドが男の瞳を見ても、分かる事はひとつもない。長いまつげに縁取られた瞳。柔和な印象を覚える。それだけだった。男が何を考えているかだとか、何を抱えているかだとか、そういう事は皆目見当がつかない。
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