次のライブでは泉と凛月のシンメの演出が多い。泉は凛月と約束してみんなよりも早く集合して、二人で練習を始めることにした。
なんだかんだお付き合いを始めてからはじめての二人きりの練習。みんなとのレッスンが終わったら食事にでも誘おうかな。泉は普段のレッスンよりもそわそわした気持ちで凛月を待っていた。
約束の時間になって凛月が来た。ちゃんと来て偉いと褒めようと近づくと顔を逸らされる。一瞬いつもよりも白い凛月の顔が目に映った。
「ちょっと、顔色悪くない?」
「大丈夫…すこし眠たいだけだから…」
だからみんなが来るまで練習しよ、と曲を掛けてレッスンを始める凛月が気になるものの、凛月は無理なら無理と言うだろうと思い泉も踊りはじめた。
やっぱりいつもより動きが鈍い。同じユニットのメンバーとしてレッスンしたり舞台に立ってきた泉には、昼間とはいえ今日の凛月の調子が悪いことはわかる。それに最近は前より昼夜逆転していないと言っていたはずなのに。
泉が思考を巡らせてる間にも曲はどんどん進んでいく。サビ前の複雑なステップを終えてターンをしようとした瞬間、凛月がふらついてしゃがみ込んでしまった。
「くまくん!」
駆け寄って頬に手を添え顔を上げさせるとさっきよりも頬の色が薄く目は潤んでいる。
「セッちゃん…?」
とりあえず横にさせないと。凛月を愛用の布団のところまで抱き上げて運ぶことにした。
くまくんを布団に寝かせて、側に座りこむと申し訳なさそうな顔で見上げてくる。
「せっかくふたりで練習なのに…ごめんねぇ」
いつものようにゆったり話しているが、微かに語尾が震えていた。
「どうしたの、くまくん」
いつもだったら眠い〜セッちゃんおんぶ〜なんて甘えてくるのに、今日は様子がおかしい。次のライブに緊張しているのだろうかと思ったが、まさか今更凛月が焦るとは思えなかった。
「なんでもない…ごめんなさいセッちゃん…」
泉を見つめる目は、迷子になったの小さい子どものように泉に縋るようだった。
もしかしたら、眠れない原因が他にあるのかも。泉は凛月の頭を撫でながら幼い子に向けるように声をかけた。
「くまくん、どうして眠らないのか教えてくれる?」
泉が努めて優しく問いかけると、凛月は少し安心したのかゆっくりと口を開いた。
「…セッちゃんに嫌われたら…練習の時にも眠っちゃって、迷惑かけて嫌われたらって…一緒にいてくれなくなっちゃったらどうしようって思ったの…」
前みたいに素直にたくさん甘えてしまったら、迷惑をかけたら、きっと泉に愛想を尽かされて離れていってしまう。凛月にとっていちばん大切な人がいなくなってしまう。話せば話すほど不安になってしまい、毛布をぎゅっと掴む指先が白くなっていく。うるうると目が潤んでいくのがわかった。
「迷惑だなんて思っていないよ。それに俺はもうくまくんを離すつもりなんてないから」
毛布を握る凛月の手を取って両手で包むと、凛月の目から涙がぽろぽろ溢れ出した。
「う〜〜…」
「それに、離すどころか…捕まえて一生誰にも見せたくもないんだよ」
そう耳元で囁くと凛月は照れたのか頬を赤く染めた。もう一度頭を撫でようと手を差し出すと布団に潜ってしまった。
「セッちゃんのばーか…」
「はいはい、ここにいるから早く寝なぁ」
泉も凛月の布団に忍び込むと、凛月はきょとんとした顔をさらに赤くさせた。
凛月の頭を片腕にのせてぎゅっと抱きしめると、腕の中でもぞもぞと動いて背中に腕を回される。
「ありがとセッちゃん…」
凛月は呟くと泉の背中に顔を埋めてふうっと息を吐いた。
泉が一定のリズムで背中をたたくと、いつのまにかすうすうと小さな寝息をたてて眠っていた。
レッスンが終わったら今日は2人でゆっくりご飯を食べて眠ろう。
みんなが来るまでもう少し、この穏やかな寝顔を見守ることにした。