「和さん! 終電がっ!」
居酒屋の暖簾をかき分けて外に出た瞬間、ひやりとした夜風が火照った頬を撫でた。
時計を見れば十一時半。慌てて声を張り上げると、和さんはぼんやりとした顔で俺を見返す。
俺は学生時代からずっと、この人に片想いをしていた。
当時、一度は告白したけれど返ってきた言葉は「大人になったら」という返答。
それを最後に音信不通になったが、奇跡みたいな再会を果たし、また告白した。
先輩はやはり曖昧な返事をしたけれど、それでも「また会いたい」と言ってくれた。
それから、こうして時々一緒に過ごしている。
色っぽいことなんて何もない。ただ、映画を見たりドライブしたり、他愛ないひととき。
それだけで十分に幸せだった。
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