その日もボクは狛枝クンの病室の扉を叩いた。
「狛枝クン、苗木です」
返事が返ってくる事は無いが、無言で入るのも何となく気が引けてしまう。だから、こうやってひと声かけるようにしている。
案の定、扉の向こうからは何も聞こえてこない。それでもボクは一呼吸置いてから、扉に手をかけた。
「入るね。失礼します」
いつもこの瞬間が緊張する。部屋にいるはずの狛枝クンの姿をこの目で見るまで、どこか安心できない気持ちがある。
ガラリと引いた扉の奥はひどく殺風景で、人が生活するには物足りないというか寂しい印象を抱く。病室だしそれが普通だと言われればそうなんだけれど。それでも、ここで過ごしている人がいるなら(それが自分のよく知ってる人なら尚更)、少しでも心地良い気分でいてもらいたいなと思ってしまう。
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