ベガのような眩しい君とピコン
星が見え始めるような、そんな時間、何の前触れもなくスマホが鳴った。
こんな時間に誰だろうとスマホの表示を見ると意外な人からの連絡
「お散歩行きませんか。」
(どういうお誘い...?)とは思うものの暇なので「いいよ」とメッセージを送った。
既読が着いてからすぐに「お家の前で待ってます」と返信が来る
(お隣なんだからそんな外で待たなくていいのに...)
なるべく急ぎめで準備を済ませ、扉を開けると、メッセージ通りに家の前には背の高い男がスマホを弄りながら立っていた
「あっ...○○さん、すいません...急に誘っちゃって...」
自分から誘ったくせに、おどおどとしていてどこかよそよそしい。
でも最初の時ことを考えれば結構喋ってくれるようにはなったものだ...
お隣の瀬尾李絃くん、私と同い年。
このアパートに引っ越してきて、せめてお隣の人に挨拶しなきゃな〜と思い、お菓子を持って挨拶に言ったあの日、李絃くんは覚えているのだろうか
ピンポーン
「すみません!隣に引っ越して来た者なんですけど...」
カチッ ガチャ
「あっ!こんにちは!」
「......っす」
ガチャ カチッ
(...ガチャ?え?今ドア閉められた?てか、鍵閉めた???)
こういうのって、少なくとも「あぁ!よろしくお願いします〜」くらいは言うものではないのだろうか?なんだよ「...っす」って?
そこから私は謎に火がついてしまい”絶対にお隣さんと仲良くなる”という目標を立て、毎日毎日懸命に話しかけ続けた、そのおかげか今では喋ってくれるようにもなり、連絡先も交換してくれて、時々...ガチで時々だけどお出かけも一緒にするようになった。
それで仲良くなって気づいたが、あの「...っす」と言っていたのはキレていた、面倒くさがっていた。などではなく普通にコミュ障だったのがわかった。
それはともかくとして、ほんとに頑張ったなぁ...私。なんでこんなに頑張ってたんだろ...とは思うが、仲良くなれたなら全てよしである。
「あ、あの...大丈夫ですか?」
無言で少しぼーっとしてた私を見て気遣ってくれたのだろうか
「うん、大丈夫!散歩行こっか!」
「あっ、はい...」
アパートの階段を二人で降り、ゆっくりとした足取りで星空の下を散歩する
「なんで急に散歩なんか誘ってくれたの?」
「え、あ、なんでって...その...この前○○さんが星見るの好きって言ってたから...今日星が良く見えるし...どう、かなって...」
星が好きなんて話、ほんとにチラッと話しただけなのによく覚えているな.....と関心しながら空を見る 、確かに今日は星がキラキラと輝いてとても綺麗だ。
「星綺麗だねー」
「...そうですね。」
チラッと李絃くんの方を見ると何故か目が合った。と思ったらすぐに逸らされた。...ほんとに星見てた?
そこからは無言でずーっと歩いていた、結構遠くまで歩くものだからどこか目的地があるのかと思って聞いてしまった。
「...李絃くんこれこんな遠くまで行ってさ、どこ行くつもりなの?」
「...え?」
少し李絃くんの歩くタイミングが乱れた。なんだ?いやらしい事でも考えていたのか?
李絃くんは顔を少し赤らめたあと口元を抑えて蚊の鳴くような声をだした
「何にも考えてなかった......」
違った、ただのバカだった。ガチで星見て散歩することしか考えてなかったんだ。
私が少し呆れた顔をしたのがわかったのか、李絃くんは「ぁ...」だの「ぅ...」だの言いながらスマホで近くの店を探している。
(でもこんな所で、こんな時間で、行けるとこって......)
「あっ、あの、もうちょっと先に、コンビニ、あります。」
(まぁ、そんくらいしかないよね〜...)
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入店音と共に自動ドアが開く、もう疲れているのか、昼によく聞こえる店員さんからの「いらっしゃいませ!」という元気な声は聞こえない。
「あ、あの...ちょっと待っててください!」
李絃くんはそう言って狭いコンビニの中に何かを探しに行った。広いわけでもないのだからそんなこと言ったってすぐに合流してしまうだろうに...
しょうがないのでわざわざ李絃くんと鉢合わせないように出入口手前にあるものをゆっくり物色する。
(最近は色んなものがあるな〜)
メイク用品、服、一番くじ、コンドーム.........
...そうか、コンビニだもんな、あるか。
「あ、○○さん...すいません、待たせて......」
買い物を終えたようで、腕にビニール袋をぶら下げ、両手に飲み物を持った李絃くんが近づいてくる。
「買いたいもの買えた?」
「あ、はい!○○さんが、好きそうな飲み物とか買ってきたんですけど......」
私に飲み物を渡そうとしたところで、私が見ていたものをチラッと見て、少し固まってから
「.........?!?!??」
李絃くんはものすごい勢いでコンドームと真反対に顔を背けた。
「あ、ぁあ、あの!!も、もう、お、お菓子とか、買ってきた、から、は、はやく、コンビニ、出ましょ!!」
李絃くんの顔を見ると真っ赤っか、声はいつもより少し大きいし、ところどころ裏返っている。
...童貞なのか??
「そうだね、コンビニ出よっか」
「は、はい...」
飲み物を受け取り、コンビニの駐車場で2人ちょこんと座るが、李絃くんはまだ顔が真っ赤で、無言になっている。
仕方ないな...私から話題振るか
「李絃くん何買ってきてくれたの?」
「え?あ、あぁ!えっと、○○さんが、好きかな?ってグミ、とか、キャンディーとか、じゃがりこ、ポテチ......あ、サラミ!!」
(結構買ったな...)
「あ、あとその飲み物...です!○○さん、いちごのフラッペ、好きかなって...」
「いちご味好きだよ〜!ありがとね〜」
「よ、良かったです...」
まだほんのり頬は赤いが、少し落ち着いたようで顔が真っ赤では無くなっている。
「家帰りながら食べよー?」
「あ、そうですね...!」
それからは歩きながらたまにグミを食べたり、飲み物を飲みながら帰路に着いた。
「李絃くん凄いね、李絃くんの買ってきたお菓子とか飲み物、全部めっちゃ私が好きなやつ...」
「え、ほんとですか?良かったです...○○さん、甘いもの好きって言ってたし、こういうの、喜んでくれるかな...って」
あんまりにも優しい口調でそう話すから、今どんな顔してるんだろって気になって、見上げた先の李絃くんと目が合った。
少し困ったような、でも少し嬉しそうな、そんな顔が行きの時よりも綺麗に光る星空に似合っていた。
「...李絃くん、なんか、昼より夜の方がビジュいいね」
「え、あ、ほんとですか?あ、ありがとうございます...?」
困らせてしまった...と反省していると李絃くんが小さめだけど、ちゃんと聞こえる声で
「お、俺も...夜のときの、○○さんって、目に、星が、キラキラ反射して写ってて、すっごく、綺麗だな、って、思ったり...します......」
顔は赤くなっているけれど、こういうロマンチックなことが咄嗟に、自然に言えるってすごいな...って思った。
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もうすっかり真っ暗になってしまった頃。ようやくアパートに着いた。
二人で階段を登り、扉の前で顔を見合わせる
「今日はありがとね、また散歩行こ!」
李絃くんは少し固まったあと肩の力が抜けたようにして
「...い、いいんですか!?や、やったぁ...」
と嬉しそうに話した。
手を振り、互いの家に戻ってから、何故か私は先程の李絃くんの顔が頭から離れなかった。
へにょっと安心したように笑う彼の顔は、どんな星よりも綺麗だ。
...私も李絃くんに負けず劣らず、ロマンチストだな、と思った。