無題喧騒から少し離れた場所に立っていたライカンは、視界の端で揺れ動く金糸を見つけた。その瞬間、突き動かされるようにその手を掴んでいた。
「何のつもりかね、これは」
不機嫌さを全く隠さないその声は、随分昔に聞いたものよりも何トーンか低い。意思の強そうな赤い瞳はあの頃のままだ。背丈はお互いに伸びているが、身長差は縮まる事なくむしろ開いたように思える。こちらを振り向く時、緩やかに揺れた金の髪は、今では尻を覆い隠すほどの長さまで伸びている。それがライカンに過ぎ去った年月を嫌でも思い起こさせて、心をかき乱した。
「おい、いつまでそうしている気だ」
そう言われて掴んでいた手首をやっと離す。ライカンからすれば十分に細いと感じる手首。力を込めてやれば、いとも簡単に折れそうな気さえして。
3544