どんな因果か、それとも頑張った褒美なのか、それともそれとも
腕の中に納まるのは、君を喪ったあの日よりも随分と幼くなった君。
だけどぜ~~~んぜん変わらない雰囲気が悔しくのに嬉しくて、思わず口角が上がりそうになるのを噛みしめながらも(絶対甘い顔なんて見せてやるもんか!)なんてちょっとの反抗心をチクリと刺せるような言葉を放ってしまうのだって、しょうがないよね。うん。しょうがない。
「これも君の掌のうちだった?」
「まさか。僕もコレは見えなかったよ。神のいたずらか、はたまたバタフライバタフライバタフライ・エフェクトか、ああどちらにしてもはるあきだったからだろうねぇ。」
「・・・・・本当にどこまで見通してたんだよ。」
「ふふ。僕が戻るのは本当に僕も予想してなかったよ」
僕のチクチク言葉すら、未来は可変だからね、と千年ぶりに顕現をした僕の執着の容ははんなりと笑って流す。
「君の時代に絶対に無かった言葉で言われても説得力無いよ」
「そう」
「ま、どっちでもいいや。今回は辛うじて信じてあげる僕の優しさと千年間君との約束を守っていた僕に感謝して。」
「ふふ。ありがとう」
素直に感謝しちゃうし。本当に食えない子。
千年の時を超えてすら、本当にそういったところは変わってくれてないことに安心すると同時にどうしようもない焦燥に襲われる。
(次、もまた君は必要があればだれに何も言わずに消えるんだ)
前兆すらなく
日常と変わらずに突然。
勝手に未来を決めて
何も相談せずに、自分だけがどうにかなれば丸く収まる(・・・いや・・よくよく考えるとはるあき君はじめ多方面の方々に迷惑かけっぱなしだな!)と思っていたり。
(そんなことが、許せるものか)
君は知らないだろう、千年前の痛みも、千年間の後悔も。
そして千年の時を超えても消えてくれやしなかった執着も。
(絶対に許せない)
だから準備をしたんだ
少しずつ少しずつ
もし君がまた勝手に居なくなろうとしても出来ないように。
残念ながら僕はもう神域は使えないけど、それを補える道具がこの時代にはある。
君が痛くないような
君が逃げられないような
そんな君を縛り付ける道具を巣に隠し持つようになったのだってしょうがないよね?。
***********
復職をしてから数か月。
あっちゃんの無茶ぶりにも、弐年参組が巻き起こす事件、事故もなんとか乗り越え。
くたくたにくたびれた身体を動かしながらもようやっと家にたどり着けば玄関にあるのは家人のモノよりも随分と小さいスニーカー。
(あ、今日来てたんだ)
それだけで体の中にあるしおしおに萎れたちょろ火が、ぐわりと盛り返すように炎にな
るのを感じて(思春期の少年なんて年は過ぎ去っているんだけどなぁ~)なんて気恥ずかしくなる。
「せーめー君?」
気恥かしさのまま三和土にくつを脱いで上がっても、いつもであれば『お帰り』なんて応えがあるのに、今日はないことに不安に襲われて思わず迷子のような声をだしつつも
居間の障子をあければ。背を向けて座ってる子ひとり。
「なんだ~居たらいたっていってよ」
「あぁ、お帰り朱雀。そしてお疲れのところ悪いけどちょっと聞いていいかな?」
「ん、なになに?」
君が僕に聞きたいことなんて珍しいこともあるもんだねぇ、と続けたかった言葉が途切れたのは、正座をしているせーめー君の、その膝の上に乗っていたのが僕の『せーめー君を繋ぎ止めるためのブツ』コレクションだったからであって。
(ひっ!なんで??なんで???)
「朱雀。とりあえずは座ってくれるかな?」
有無を言わせない声に従うように思わず正座をする。してしまう。
「まずは今日は梵丸さんと天丸君に頼まれてお掃除のお手伝いをしていたんだけどね」
「あ~。うん副隊長がそんな事言ってたね」
言ってた。間違いなくばっちりと。しかも壱週間くらい前に。
『本格的に熱くなる前に部屋の掃除をしようと思います!』
『え~、面倒』
『面倒じゃねえよ。というか俺らはいいとしてもアンタは必要だろ?』
『僕?僕は別に、今のままでも・・・・・』
構わないよ~と続けようとした言葉はじっと僕を見る副隊長のいるような視線で気づく。
『うん。必要だね!必要だよね!必要ですよ!僕が一番必要です!!!!!!』
(マジか~~~~~~~)
僕ってば一応知略の元神だし、そこそこ・・・うん・・・優に千年は超える程度には生きているんだもん。そりゃあ色々と隠し事だってできるんだよ?
だから隠していたし、隠せていたと思ってたことがモロバレだった時、どんな顔をすればいいのか分からないんだよ!『だろう?』と言いながらにやり、と笑う副隊長から隠れるように味噌汁椀を傾ければ。
『まぁ俺らだってせーめーさんに教わりてぇことは沢山あるしな』なんて続けられた話に『は?』ってなる。
『だってあの人面白れえもんな』なんてしみじみこ零されるそれに、思わず
『あのバカ、妖怪ホイホイが!!』とうめいてしまったの。僕悪くない。
ちなみに書記も副隊長にも『ねぇ・・・・もしかしてあの子の事、そういった・・・・目で見ちゃってたり・・・・する?』と問えば、二人は顔を見合わせた後
『そんな目ってどんな目だよ?というかアンタみたいに恋情煮凝りみたいなもんじゃないから』
『隊長みたいな好きじゃないですから』
ハッキリと言われたソレに喜べばいいんだか悲しめばいいんだか分からないよ!!!
とりあえず恥ずかしさだけは天元突破しちゃったから膝をついて床に崩れ落ちはしたけど。
閑話休題
(僕のバカーーーーーーーーーー!!!!!!!)
いや、ね、副隊長が何のために三週間前っていう絶妙に忘れなさそうな期間を設けての大掃除宣言だったと思っているのか。
アレは先々に伝えておいたんだから俺らに見つかりたくねえもんはちゃんとこの箱に入れておいてくれよ。とそういった心遣いだもん。うわ僕の副隊長がしごできすぎてカッコよ!!
そしてしごできな家族に対して、『まぁ、まだ時間はあるしね』なんて後回しにしたツケを思いきり食らってる僕ヨ。
だから夏休みの宿題は最初のうちにやっちゃいなっていってたでしょ!という幻聴が聞こえる・・・なんなら僕自身、今日生徒に言ってたよ。「宿題ちゃんとやりなよ~~~」なんて!!!どの口が!!!!!!
ぐぬぬぬと悶絶する僕をよそにせーめー君は目の前に広げた拘束具のうちの一つ。一番メジャーであるともいえる手錠を人差し指で撫でながら。
「うん。君だって大人だし、僕も見て見ぬふりをするべきなのか迷ったんだけど」
(うっわ!その顔ヤバい!)
僕が君専用に用意した手錠を撫でながら伏せ目がちで言われると思春期を超えまくった僕だって、そりゃ色々とずきゅんと来ちゃうものがあるよ!最低だって分かってるから言わないで!
「君も大人だし・・・うん・・・そういうことに興味を持つのだって悪いことじゃない・・・と分かってるし」
「・・・うん」
「君は元から・・・そういった事に興味が旺盛だって言うのも分かってるから」
「・・・そこについては、まあ・・・否定はしないけど!!今度じっくりと僕の見解を分かって欲しくはあるよ。というか」
「何?」
「せーめー君、なんで近寄ってきてるのさ」
「いざという時の退魔の力」
「何力をぶっぱなそうとしてるの!?何もしないよ!?」
「元従僕が犯罪者になる前に・・・」
「もしかして結構悩んじゃってたりしたの!???」
「だって僕の朱雀を犯罪者にさせるわけにはいかないよ」
「僕の朱雀できゅんとしちゃう僕のバカ!!!!いやいやいやいやしないしない!!!」
「だって『君も手錠でつながれてたかったんでしょ?僕に』とか言い出すんだよね」
「いやいやいやいや言わないよ!?きっと多分メイビー言わないよ!?というか何知識?!!!」
「道満の部屋に散らばってた雑誌からの引用」
「あっちゃーーーーーんーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」