あの時のヒーロー。「オレな、ホンマに小さい頃なんやけど…誰かに助けられた事があったんよ」
Oriensの談話スペースで不意に聞こえたマナの声。
思わず小さく跳ねた肩の緊張を流すため、ソファに深く腰掛け直して、僅かに呼気をを吐き出し口元を緩ませる。
「へー!ヒーローに、だよなぁ…いつぐらいの話?」
マナが小さい頃なんて20年かそこらくらい前だろ。
こざかしーもそう多くなかったし、ヒーローもそんなに大勢いた訳でもなかった。
それでもやっぱり出て来る時は出て来るもんで。
「え〜…っとなぁ、いつやったかな。ホンマに幼稚園とかの頃なんやけど……オカンのお迎えが遅なるいうて、一人で園内の砂場でーー」
「…ちっさい砂場?それって、」
ーーひよこのおもちゃとカエルのジョウロが置いてある?
思わず口を挟みそうになったけど、コーヒー飲むフリしてお口チャック。…あっぶね。
マナが首を傾げてコッチを見るけど、なんでもないって言うように首を振って続きを促した。
「まぁ、園内やし安全や思うやん?それが砂場からちっこい、マジでちっこいこざかしーが!ズバァーッて出て来て、なんということでしょう…愛らしいマナくんの髪や服を引っ張り始めたのです!!か弱いマナくんは泣いて蹲ることしか出来ず…」
……なんか劇場始まったんだけど。
確かに泣いてはいたよな。
ただ、ひよこ投げてたし、カエルでブン殴ってたのは俺の記憶違いかな。
『あっちいけやああああほーーー!!!』
投げるもんがなくなった頃だっけ。
俺が到着したのって。
『っは、強いじゃん!』
子供に当たらないように、こざかしーにだけ当たるよう雷落としてさ。
着地したのが砂場だから砂煙のスゲェこと!
子供、ーーマナの目やらに入ったみてぇで、これは悪ぃことした。うん。
「で、さしものマナくんも万事休す!って時に砂煙で何っも見えんくなって!…誰かが助けてくれはったんやけど、何も見えんから手を伸ばして掴もうと…したんやったかな」
…あー…そういや何もねぇとこに手伸ばしてたな。
あれって掴もうとしてたのか。…今になって知る新事実。
砂場の縁…つーの?
あれに引っ掛かりそうだったから、手掴んで止めたけど。
『…砂引っ掛けちまったけど、けがは??いたいとこねぇ?ーーつーか、がんばったなぁ!』
震えてんの。ちっこい手が。
一人で踏ん張ってたから、がんばったなって頭撫でたらさ。
すんげぇ泣いた。
園内、町内に響いてんじゃねぇかってぐらいの大泣き。
「いやぁ…かけてくれた声がさ、すっっごい優しかったんよ。頭撫でてくれた手もあったかくて、デカくってさぁ。…その後どうしたかは覚えてへんのよな、気ぃついたらオカン来とって」
………危うく通報されそうになったんだよ。マナがギャン泣きするから!
ヒーローだってどうにか信じてもらえて、解放されたってのにいいとこ取りで記憶しやがって。
でもま、あの時の子供が同じヒーローになるとは。
世の中分かんねぇもんだよな。ホント。
……え?
マナに言わねぇのって?
今は俺の友だちなんだし、いいんだよ!