はじめてのクリスマス九十九誠一は二十歳を迎える少し前からクリスマスといえば一人で過ごすものと認識していた。
誰かと祝う事もなく楽しむわけでも妬むわけでもないクリスマスはただの1日として無感動に過ぎ去る時間でしかない。
八神に手を差し伸べられ外へと一歩を踏み出した最初の1年もそれは変わらず、2年目にようやくクリスマスらしいシールの貼られたコンビニのスイーツを手に取った。
それを個室で食べた時、一人で過ごすクリスマスというものにはじめて心を痛めたが、それもすぐに諦めがついた。
「九十九君、メリークリスマス!…って言ってもケーキに予約がいるなんて知らなくて普通のなんだけどね。一緒に食べよ?」
月日は流れ4年目。
年初の頃に知り合い親睦を深めた杉浦と名乗る男もクリスマスは特別な人と過ごすのだろうと、今年も一人コンビニスイーツを食べ終えた九十九の個室にその杉浦はケーキ箱を片手にやってきた。
「……いいのですか?」
「ケーキ代?いいよ、クリスマスだしね」
九十九が意図したようには言葉が伝わらなかったとは露程も考えていない杉浦は可愛らしいケーキを自分と九十九の前に置きスプーンを配る。
その姿を呆然と眺める九十九は、はじめて感じる家族以外と過ごすクリスマスの浮き足立つような喜びをどうすればいいのか分からず、ただただ手を開いたり閉じたりと忙しなく動かすのだった。