午後の光が窓から四角に差し込み、二人の肌を照らしていた。冬が近づきつつある今も、アクデニスの陽光は明るく温かい。開け放した窓からそよぐ潮風が心地良く汗を乾かし、遠くの潮騒と海鳥の声を運んできた。
イゴールはルカの膚を指や掌で辿りながら、その滑らかな手触りをただ楽しんでいた。ルカは半ば目を閉じ、情交後の気だるさと優しい手の温かさに委ねている。
滑らかに張り詰めた白い肌に、黒子や雀斑の類はほとんど見当たらなかった。代わりに、大小の傷跡が意外なほど残っている。恐らく怪我なのだろうが、どうやってついたものか。
(意外にも腕白坊主だったのか…?)
アクデニスと白冠の混血児が、ほんの二十年ほど前まで権力者の献上品としてやり取りされていたこと、奴隷として高値で売り買いされていた事実を知った衝撃は大きく、イゴールの頭の片隅は常にそれを忘れることがなかった。今では人間の売買は厳しく禁じられ、ルカももはやそんな年齢ではないとわかってはいたが。
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