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    一次創作のおふたりのエチシーンを先に書いてみました🔞
    微妙にネタバレも含みますが、気になさらない方に。

    午後の光が窓から四角に差し込み、二人の肌を照らしていた。冬が近づきつつある今も、アクデニスの陽光は明るく温かい。開け放した窓からそよぐ潮風が心地良く汗を乾かし、遠くの潮騒と海鳥の声を運んできた。
    イゴールはルカの膚を指や掌で辿りながら、その滑らかな手触りをただ楽しんでいた。ルカは半ば目を閉じ、情交後の気だるさと優しい手の温かさに委ねている。
    滑らかに張り詰めた白い肌に、黒子や雀斑の類はほとんど見当たらなかった。代わりに、大小の傷跡が意外なほど残っている。恐らく怪我なのだろうが、どうやってついたものか。
    (意外にも腕白坊主だったのか…?)
    アクデニスと白冠の混血児が、ほんの二十年ほど前まで権力者の献上品としてやり取りされていたこと、奴隷として高値で売り買いされていた事実を知った衝撃は大きく、イゴールの頭の片隅は常にそれを忘れることがなかった。今では人間の売買は厳しく禁じられ、ルカももはやそんな年齢ではないとわかってはいたが。
    これほど傷だらけなら、売り物にならないのではないか、とどこか安堵している自分がいた。

    「…これは大きいな」
    肘の外側に、銅貨一枚分くらいの大きさの肉が削げた跡を見つけてイゴールは呟いた。他とは違う感触の皮膚を指で撫でると、ルカが眠そうに瞬きした。
    「…子供のときに、岩場に生えてる草を採ろうとして、落ちて擦ったんだ」
    「痛かっただろう」
    「うん…」
    イゴールが傷跡に口づけすると、ルカは少し恥ずかしそうにした。
    「君の腕と脚は傷だらけだ」 イゴールは優しく彼の体を撫でながら言った。
    「全部の話を聞いてたら夕方になるんじゃないか」
    「大したことないよ」とルカは笑った。
    「僧院の裏手にある森と野原でついたものばかりだ。集中するとよく周りが見えなくなって、マスター・アトに怒られていた。それにたぶん、僕の感覚は他人よりちょっと鈍いんだ」
    イゴールは、ははっと短く笑った。
    「本気で言ってるのか?」
    ルカの鎖骨から胸板に指の背を滑らせながら言った。
    「君が賢いのは知ってるが、自分のことになると少々怪しいところがある」
    爪の端が乳首に触れて、ルカの脱力していた体がびくりと震えた。彼は反論を試みた。
    「本当だよ。手袋をつけずにイラクサの繁みに手を突っ込むから、いつもマスターが…あ、」
    ルカは言葉をと切らせて、胸元に与えられる熱く濡れた感覚に唇を咬んだ。これまで気にも留めなかったそのいたいけな部分は、目覚めた後は無視できない感覚を与え始めていた。瞬時に心拍が変わり、重く震える息が漏れる。イゴールは最後に軽く歯を当ててルカに鋭い息をもらさせると、顔を上げて笑った。
    「君は本ばかり読んでる子供かと思ってた」
    「…冬の間はね」
    ルカは眉を寄せたままイゴールの顔を見たが、それ以上何も起きないことを悟ると、顔を隠すようにうつ伏せになった。イゴールは笑いを浮かべながらその背中に見惚れた。脛骨の付け根から真っ直ぐな深い背骨、そして引き締まった腰へと手を滑らせる。ルカがこの体を自由にさせてくれていることが、四日経った今でも信じられなかった。
    ここはなんの傷もない、と思いながら視線を下げていき、不意にイゴールは眉を寄せた。
    「…これはどうした」
    視線が左の尻に向けられているのを見て、ルカは反射的に体を返そうとしたが、イゴールの手に固定された。
    「何でもないよ、それは」
    彼は恥しそうに頭を振ったが、イゴールの目を見ると諦めたように力を抜いた。
    「尻もちをついたところに罠があって、挟まれたんだ。罠が小さかったからそのくらいで済んだけど」
    「いくつのとき?」
    「八歳、かな…」
    ルカの声はイゴールの舌がそこを舐めたせいで上擦った。イゴールはルカを仰向けにさせ、更に彼がこれまで見つけた一番大きな傷跡、左の内腿の付け根近くに走る縫合の跡をじっと見下ろした。ルカは赤くなってシーツを手繰り寄せようとしたが、イゴールの手が止めた。
    「じゃあこっちは?かなり深いだろう、これは」
    「友達と樹の上の巣を見ていたら、枝が折れて…落ちた時に落木で切った」
    イゴールは深いため息をついて、そこに唇を寄せた。
    「俺が君の周りの大人だったら、外出禁止にするがな」
    ルカは息を弾ませたまま笑った。彼の瞳は明るく、微かな誇らしさがあった。
    「そういえば『グリュオスに野山はない』って。君も怪我の跡は見当たらないね」
    イゴールは傷跡を撫でながら、上目にルカの顔を見た。
    「誰がそう言った?」
    「え?…あの、エストラム大学で、シルヴァンだよ」
    イゴールの顔が一瞬で不機嫌になり、ルカは思わず目を瞬かせた。
    「ベッドであいつの名前を出さないでくれ」
    ルカは小さく笑って彼の髪に手を伸ばした。
    「…あの後、僕が試験を受けてる間に、君は随分なことをしたってキユカが言ってた。何をしたんだ」
    「大したことじゃない。二三本歯を折ってやっただけだ」
    ルカはイゴールの巻き毛に指を通し、そっと撫でた。
    「報復するなと言ったのに…」
    「報復のうちに入らないさ」
    イゴールは鼻を鳴らして、ルカを見上げた。
    「それで?確かに俺は都会っ子だが、傷跡をどう扱うかは俺の方がよく知ってるぞ」
    「え?」
    イゴールは口を開けて噛みつくようにルカの傷跡を覆うと、その縫合跡に舌を這わせた。腰を強く掴んで動きを押さえ込む。ルカの驚きと抵抗が次第に弱まって息が荒くなり、横目で見える彼の昂りが十分になってから、イゴールはやっと顔を上げた。ルカは頬を紅色に変え、半ば閉じた目でイゴールを見返した。その唇から懇願するような息が漏れたが、イゴールはそれを無視して、下肢の傷跡の探索に戻った。ルカの恨めしげな視線がそれを追いかけ、唇があちこちに触れる度に小さく震えた。
    「おや、ここにもある」
    イゴールの手がルカの踵を持ち上げてしげしげと眺めた。彼の指がくるぶしの近くの小さな2つの点を撫でた。
    「ひょっとして蛇か、これは」
    「そう…岩場に隠れてて」
    「ルカ。野原や危険な場所を歩くときはな、ブーツを履くか、蛇よけを巻いておくもんだ。君はどうせ裸足で走り回ってたんだろう」
    イゴールの舌をそこに感じると、ルカは身動みじろぎして小さく声をあげた。
    「イゴール、もう、頼む…」
    イゴールは踵を持ち上げたまま、ルカのふくらはぎから滑らかな内腿を優しく噛みながら上っていき、ようやく開かせた彼の両足の間に体を位置した。
    「君の体には物語がたくさんある。全部知りたい」
    ルカは息を切らせ、ようやくほっとした表情で彼の首に腕を回した。
    「後で話す。今は…」
    口づけはすぐに甘く深くなった。イゴールの顔が首筋に移ると、ルカは頭を反らせて無意識にその場所を差し出しながら、彼の肩を握った。
    「どうしたい?」イゴールが耳元に囁いた。
    「…君は?」
    ルカの目を覗き込むと、まだ言葉にできない願いがそこに揺れていた。イゴールはゆっくりと唇にキスをした。
    「俺はもう一度したいが。無理はしなくていい」
    ルカは目を閉じて、小さく頷いた。
    「構わない。僕も…したい」
    その言葉に、イゴールは胸の内で思わずアクデニスの呪いと祝福の言葉を呟いた。情欲の手綱を引き寄せながら、低く呟いた。
    「痛くないかな」
    「平気だと、思う…」
    最初の情交で柔らかくなった部分に、イゴールは自分を押し当てると、ルカの表情を探った。大きな羞恥と、微かな戸惑い。その中に明らかに求める色を見て、そのまま体を重ねた。ルカの瞳に霞がかかり、唇が震えた。それを見下ろしながら、イゴールはほんの少しだけ押し込むような動きをした。
    「…気持ちいい?」
    ルカが眉を寄せて小さく頷くと、イゴールも熱い息をつき、しかし一度ゆっくりと引き抜いた。喪失感に思わず切ない声があがった。
    「少し待って――」
    イゴールの指がリュベラをすくって自分自身に塗るのを、ルカの熱に浮かされたような視線が追った。滑りを借りてもう一度、今度は更に奥まで潜り込んだ。全身が震え、彼の背中を抱きしめた。
    「あ、イゴ…」
    イゴールは顎をひいて彼の唇を求め、ゆっくりと動きながら口づけを深めた。情交を交わし、その数が片手では足りなくなる頃になると、ルカは懸命に探り当てていた細い快感を次第に確かなものに変えつつあった。
    大腿を撫でる手の動きに応えるように、両脚が彼を引き寄せ強い四肢で抱きしめた。始まりの日から二人を覆っていた最後の配慮や遠慮はもうなかった。ルカは美しく発情した雄として、全てを開いて彼を求めている。この男に求められ、彼を満たすことができる自分をイゴールは誇りに思った。正しい相手と正しいことをしている。ようやくここまできた。それはルカにとっても同じだと彼は焼け付くように思った。唇をもぎ離し、ルカの涙が浮かんだ目を見下ろして、唸るように囁いた。
    「ルカ、愛してる」
    ルカの瞳孔が暗く開き、目の周りが濡れて耳の方へ涙が落ちていく。それを口づけで追いながら、イゴールの両手は彼の頭を掻き抱いた。その後はただ我を忘れた。息遣いとルカの声だけが午後の室内を満たし、ふたりの新しい物語を紡いだ。
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