バカップルと追いスイーツ「ねぇあんた大丈夫? なんかぼーっとしてない?」
「……うんー? だいじょーぶだけどー?」
なのかの心配を星は否定してみせたが、その返答がすでに間延びしていて微塵も大丈夫そうではない。これは今日の依頼は中止だなと、なのかは依頼人であり目下の案内人であるサンポへと声を掛けた。
「ごめん、なんか星が調子悪いみたいだから依頼はまた今度――」
その言葉に、少し先を歩いていたサンポがこちらへ戻ってきた。てっきりニ、三言やりとりして解散になるだろうと思っていたなのかには一瞥もくれず、星の前に立つ。そのままごく自然な動作で星の顔に手を添えてそっと上向かせたかと思うと、こつん、と額同士を触れ合わせた。
「えっ」
思わず漏れたなのかの声に二人からのリアクションはない。
「……ねつ、ある?」
「いつもより少し高そうですね。念の為ナターシャさんに診てもらいましょう」
いつもよりって何、あんたたちいつもこんなことしてるの? ってか何で星も当たり前のように受け入れてるの!?
声にならない疑問を頭の中でぐるぐるさせるなのかに気付く様子もなく、サンポは星を抱きかかえるようにして歩き出した。「歩けそうですか? それとも抱っこの方がいい?」「んーん、だいじょぶ。あるける」などとふわふわした会話を交わしながら。
「……ちょっと待った!」
「え?……あっ」
たまらず引き留めたなのかの声に、サンポが弾かれたように振り返る。今の今まで本気でなのかの存在を忘れていたのだろう、ものすごく気まずそうに目が泳いでいた。それでいてその両腕は弱った星を守ろうとでもするかのようにがっちりと抱え込んでいる。
なのかは突然口の中に大量の砂糖が湧いて出たような錯覚を覚え、自分の顔がどこかの遠い惑星にいるというチベスナなる生き物みたいになってゆくのを感じた。
「あの、三月さん……?」
「……やっぱりいいや、大体分かったから。――星のこと、よろしくね」
色々な意味を込めた「よろしく」に、サンポが若干引き攣った顔で「ええ、それはもう、お任せください」と言い置いてそそくさと立ち去ってゆく。星の方は何とも安心し切った表情でなすがままに運ばれており、見送ったなのかは己の口の中にザリッという音を聞いた気がした。
「あーもー、やってらんない!!」
甘さには甘さで対抗とばかりにヤケ酒ならぬヤケスイーツを決めるべく、なのかはベロブルグで今一番話題のカフェへと駆け込んだ。ケーキやらタルトやらを片っ端から三つずつ頼み、二セットはテイクアウトにしてもらう。ひとセットはどうせ今ごろ自分と同じ目に遭っているだろうナターシャへのお見舞いであり――もうひとセットは、なのか自身のツーラウンド目のためであった。