ハンドクリーム分け合うロビ「あ!」
ロビンは、食堂のテーブルでひとり声を出した。その後ろから、オリアスがひょいと覗き込んでくる。
「なに、どしたの?」
夕食が済み、教師達はそれぞれ自室やリビングに行ったため食堂は静かだ。ロビンと洗い物を手伝っていたオリアスの二人きりだった。
「オリアス先生、手! 出してください」
「こう?」
オリアスは言われるままに両手を差し出した。
そのあまりに無防備な仕草に、ロビンは表情筋が蕩けそうになる。だらしない顔がバレるとオリアスが不機嫌になるため、堪えるために頬の内側を噛んだ。
彼はパーソナルスペースが広いしスキンシップも好まない方だ。警戒心も強く、家系能力を切っているとそれが尚更顕著になる。そんなオリアスが、疑わず手を出して触れさせてくれるのが嬉しくてたまらない。
「ハンドクリーム出し過ぎたのでお裾分けです」
ロビンはその白い手を、両手で包むように握った。触れると乾燥の目立つオリアスの手に、たっぷりのクリームを塗り広げていく。
「ん……。これ、いつも使ってるやつ?」
「そうだよ、バルバトス謹製の特別ハンドクリームです」
「へぇ」
「そっちの缶が手荒れとかちょっとした傷に効くやつで、こっちのチューブは保湿用」
そんなことを言いながら、手のひらから筋張った甲をなぞり、爪の先まで広げていく。オリアスは大人しくされるがままだ。
「弓使いは手が大事だからね、本家で個別に調合してるんだよ。これは僕専用のやつ」
もう余分なクリームは残ってないが、ロビンはそのまま恋人の細い指をくすぐるように指を絡ませる。自分の手と比べて、オリアスの手はほっそりしていて形も綺麗だ。そのまま手を繋いでいると、冷たかった彼の指先がじわじわと温かくなってくるのがわかる。
「良い匂いだね」
「でしょ? 何の薬草だったかなぁ」
「……いつも嗅いでる匂いって感じがする」
オリアスはすんと鼻を鳴らして、緩く口角を上げた。仄かな香りだが、一緒に過ごすうちに彼にとっても馴染みのある匂いになっていたらしい。それが、近い距離を許されている証に思えた。
他愛ない言葉を交わしながら、そろそろ手を離した方がいいかと考える。自分はもっと繋いでいたいけれど、恋人は恥ずかしがり屋なので。
ふいに、手を握り返された。
決して強い力ではないけれど。見上げたオリアスの耳は僅かに赤い。
「えへへ」
「……何笑ってんの」