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    thiramisu10like

    @thiramisu10like
    何でも許せる方向け。

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    thiramisu10like

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    風呂敷を畳めない気しかしない。
    謎設定ミステリ風味予定だった代物。
    また精神を弱々にさせてしまった。

    ーー責任を取るよ
    赤司の言葉が蘇ってくるのを、慌てて首を振って消し去る。しかしもう思い出してしまった。宝石がくらむほどの美しい瞳は、とても鋭くて作り物のようだった。瞳と同じ色の柔らかい髪が顔に触れるほど近づいて、至って真剣に赤司はそう告げたのだ。
    (責任、なんて……取られても困る)
    なんとか頭から消し去りたいのに、そうしようとすればするほど赤い色は脳内を侵食していく。熱い吐息が零れ落ちてしまうのを無視して、枕に顔を押し付けた。
    赤司征十郎は特別な人間だ。今までどんなことでも負けたことがないなんて言う化け物。そんな人間に選ばれたつもりになってしまった。だから自分も特別なんじゃないかなんて勘違いをしてしまった。
    (実際は選ばれてすらいなかった)
    黛千尋は代用品でその成り損ないだ。選ばれたのは黛ではなく、オリジナルただ一人だった。今まで誰かに選ばれたいだなんて思ったことはなかったのに、今はどうしようもなく赤司に選ばれたくてたまらない。でも黛は凡人で、成り損ないだから彼のそばには立てないのだ。
    (オレはいつからこんなに女々しくなった?)
    チクチクと痛む胸に手を当てながら、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。それでも痛みが消えることはないけれど、少しだけマシになった気がする。
    この気持ちを忘れられる方法を知っている。忘れられるはずだ。忘れなければいけないのだ。
    ガラスでできた小さな透明な小瓶の蓋を開ける。澄んだ液体からは仄かに花のような香りが漂ってきて、まるで花の蜜のように思えた。そっと指先で掬って舐めてみれば、どこか懐かしさを感じる味がした。
    「……まずい」
    飲み込んだ後に残る不快感が嫌で、すぐさま吐き出してしまう。どうしてこんなものを飲む奴がいるんだ。それでも黛は飲まなければならない、忘れなくてはいけないから、これを飲めば忘れられるから。
    一息に小瓶の中身を煽る。これが物語の結末ならばバッドエンドでしかない終わり方だと思った。
    「あかし」
    ポツリと呟いてみるが、返事があるはずもない。当たり前のことなのに、なぜか酷く寂しく感じられた。

    黛千尋の行方を誰も知らないということがわかったのは、卒業式から1週間後のこと。進学したのか就職したのかどうかも誰も知らず、実家に連絡しても帰ってきていないと言われたそうだ。
    『すみません、ご協力ありがとうございます』
    丁寧に礼を言い電話を切ると、赤司は大きくため息をつく。黛がいなくなって3ヶ月が経つが未だに手がかりはなく、目撃情報も皆無だ。
    「どこへ行ったんですか、黛さん」
    ぽつりと漏らした言葉に応える者はいない。黛の部屋には何も残されていなかった。ただ一つを除いて。
    机の上に置いてあるのは空の小瓶だけだ。中には何にも入っていない。この部屋の片付きようは、脅されたのでなければ自分の意志で出ていったことになる。
    『責任を取るよ』
    あの時黛に言った言葉は決して嘘ではない。たとえ自分がどれだけ傷ついてもいい、彼を傷つけたことへの償いができるならそれでよかった。
    「逃げなくてもいいじゃないですか」
    きっと彼は逃げるために家を出たんじゃないだろう。赤司に責任を取らせないようにするために出ていったんだと思う。それはつまり、黛がまだ赤司のことが好きだということではないか?
    「オレはあなたに幸せになって欲しいだけです」
    自分じゃ彼を幸せにすることは出来ない。それぐらいわかっている。だけど、だからこそ、せめて彼が心穏やかに過ごせる居場所を作ってあげたかった。
    「黛さん……絶対に見つけますから」
    ぽつりと呟いた声は誰の耳に届くこともなく消えていく。黛がいなくなった日からずっと涙が止まらない。早く会いたいのに会いたくなくて、矛盾している感情を持て余しながら日々を過ごしている。
    (落ち込んでる場合じゃない。黛さんを探さないと)
    ぐいっと袖口で涙を拭うと、赤司は再び歩き出した。
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