「黛さんはオレのものなのに……どうして……どうして！！！！」
悲痛な叫びと共に赤司の手が振り上げられる。その手に握られた鋏によって、無残にも服が切り刻まれた。黛は恐怖で高鳴る心拍数をどうにか抑えようと深呼吸をする。しかしその努力虚しく、今度は首に手をかけられてしまった。このまま首を絞められ殺されるのではないかと一瞬思ったものの、赤司はすぐに手を離すと黛を押し倒すような体勢のままじっと見下ろしてきた。
「黛さん……あなたが好きです。好きで好きで堪らないんです。愛しています。ずっと一緒にいたいです。誰にも渡したくないんです。オレだけのものでいて下さい」
いつもならここで「うるせぇ」「重いんだよ」「誰がお前なんかと」などの暴言を浴びせるところだが、今はそんな気分にはなれずに黙ったまま赤司を見つめ返す。すると何を勘違いしたのか更に強く抱き締められた。
「わかってくれましたか？ ……嬉しいです。ありがとうございます」
礼を言うのはまだ早いんじゃないかと黛は思う。だって黛は何も返していないのだから。でも赤司の中では黛が了承したことになっているのだろう。
「黛さん誰とも話さないでください。オレ以外見ないでください。どこにも行かないでください。ずっと側に居てください」
ぎゅうぎゅうと力一杯抱きしめてくる腕の力強さに息苦しさを感じながらも、黛はぼんやりと考える。
赤司は何が不安なのだろうか。黛は自分で言うのも何だが競争率は高くない。地味で影が薄く、赤司のように特殊な目を持っていなければ見つけることすら難しいのだ。その上成績は平均より上だし顔立ちも悪くはない方だと思うが、つまり目立つ要素が何一つ無いのだ。
「……みさん……ゆずみさん……黛さん！ どうして返事をしてくれないんですか？ 黛さん黛さん黛さん ……好きですよ黛さん。黛さんのことが大好きだ。大好きで大切で幸せにしてあげたいと思っています。オレを受け入れてください。オレだけを見ていてください。オレだけを…………お願いします」
耳元で囁かれる声音は甘く、まるで砂糖菓子のような甘美さを孕んでいるように思えた。しかしそれと同時に言葉で言い表せないような底しれぬ闇を感じる。きっとこの男に逆らえばどうなるかわからない。本能的にそれを察してしまった黛は震えながら小さくこくりと肯くことしか出来なかった。
赤司は黛の首筋に何度もキスを落としながら嬉しそうに微笑む。
「よかった……。オレも黛さんのことをお慕い申し上げております」
黛の身体を撫で回しながら愛の言葉を紡ぐその姿は正に狂気そのものと言えるものだった。
「今日は記念日ですね。一生忘れません」
「そうかよ……そりゃ良かったな」
ようやく少し落ち着いた様子の赤司を見て黛は疲れきった声で呟く。赤司と（ほぼ無理矢理）付き合うようになって数ヶ月経つが、未だにこいつの思考回路がよくわからないと思うことが多い。
「すいません、服を駄目にしてしまって。今新しいものを用意させていますからもう少し待っていて下さい」
「あぁ……」
黛は自分の格好を見下ろす。ハサミによって切り裂かれた服だったものはもはや布切れと化しており、かろうじて下着が見えないように引っ掛かっているだけだ。これを着ている意味はあるのだろうかと考えてしまう。
「今後は服も下着も全てオレが選びますね」
つつっと指先で太股の内側をなぞられて思わずびくりとする。黛の反応を楽しむかのように笑みを深めた赤司はそのまま内腿へと触れていく。
「やめろ」
「あなたは本当に美しい……。誰にも見せたくありません」
「……」
今度この部屋から出れるのはいつになることだろうか、黛はそう思いながらも覆いかぶさってくる赤司を受け入れた。